ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 企業活動における有害化学物質管理について #1

環境関連情報

企業活動における有害化学物質管理について #1

有害化学物質管理について #1

情報発信日:2015-02-18

はじめに

現在世界中に存在する化学物質の数は約1億8,000万種類に達しておりますが、近年、国内外における有害化学物質に関する規制が強化され、対象となる法律の種類とその法律によって規制される化学物質の種類も増加の一途を辿っています。

本コラムにおいても、折に触れて種々の化学物質の規制動向について述べて来ていますが、その割合は全コラムの半分以上を占めていると思います。

このような状況において、企業活動を行っていくには、全ての化学物質規制を把握して対象となる化学物質が自社製品に「含有しているのか否か、含有しているとすればどの程度か」などを適切に管理して行く必要が生じます。

万一、規制物質の含有を見落とし、対象地域で自社製品を流通させた場合には、相当のリスクが生じることになります。しかし、全ての購入原材料や部品の組成を分析する事は不可能に近いため、サプライチェーンの上流より下流へ「正確な」情報を伝達する仕組みを構築することが益々重要になって来ています。

ところで、有害化学物質の管理を行う中で「対象となる化学物質が同一物質であるにも関わらず、複数の名称や略号、商品名等を有しており、管理するのが大変難しい」という声が多く聞かれます。

そこで、今回は化学物質の名称・略称・CAS登録番号、GHSなど、化学物質を識別するために、どうするのが良いかなどについて少し解説してみたいと思います。

 

化学物質の名称について

化学物質は、一般的にその化学構造から名称が付けられますが、構造が複雑になるに従って、どの部分を基本構造と見るかなどにより、色々な名前が付いてしまいます。そこで、一般的には世界共通の命名法としてIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)が定めた命名法(IUPAC命名法)に従い命名されますが、この命名法に従い命名すると、非常に長い名称になってしまう場合があるため、従来から使用されて来た俗称や慣用名、場合によっては商品名などで呼ばれる事が多々あります。このため、例えばある有害化学物質規制の対象物質であるにも関わらず、「別の名称で購入したため、気付かなかった」という事が起こる可能性があります。

ここで、紛らわしい幾つかの例を挙げて解説して行きたいと思います。

フタル酸ジイソノニルは、塩化ビニルなどの可塑剤として広く使用されている物質ですが、上の表においてCAS登録番号が2種類あることに、お気付きでしょうか。

本コラムのテーマである「同一化学物質でも幾つもの異なる名前がある」ことから、「同一化学構造であれば重複のないCAS登録番号により識別する事が必須」と言われていますが、フタル酸ジイソノニルには二つにCAS登録番号が存在します。

そもそもCAS登録番号とは、アメリカ化学会(American Chemical Society, ACS)が発行する「Chemical Abstracts」という雑誌で使用される化合物を識別するための番号で、同学会の下部組織であるCAS(Chemical Abstracts Service)が、同誌をはじめ各種検索サービスとしてCAS登録業務を行っており、ある法則に則り番号を決定していますので、同一化学物質に重複してCAS登録番号が付与されることはありません。日本では、一般社団法人化学情報協会がCASの代理店業務を行い、CAS登録番号取得の代行を行っています。

CAS登録番号の特徴は
・化学物質を特定するためのユニークな数値です。
・必ず一つの物質には一つの番号が付与されています。
・番号自体には化学的な意味はありません。
・CAS 登録番号はハイフンによって三つの部分に分かれています。
・一番左の部分は 7 桁までの数字、真中の部分は 2 桁の数字、一番右の部分は 1 桁の数字から成ります。例えば,カフェインの CAS 登録番号は 58-08-2 です。
・2015年 2 月4日現在、約 1 億 7,800 万の化学物質に CAS 登録番号が付与されております。最新の付与状況については、Database Counter をご覧ください。

それでは、フタル酸ジイソノニルには何故、二つのCAS登録番号が存在するのでしょう。それは、DINPはフタル酸とC9(炭素数9個)のアルコールとのエステル体ですが、そのアルコール側鎖は多くの異性体(化学式は同一ですが、立体構造が異なるなど)からなり、以下の通り二つの異性体が存在します。異性体は同じ化学式からなりますが、化学特性が異なり別の化学物質と認識されるために、その場合には異なるCAS登録番号が割り当てられます。

フタル酸ビス-(2-エチルヘキシル)<DEHP>はREACH規則においてSVHC物質リストに収載され、日米欧においては、幼児用のおもちゃなどへの使用が禁止されているにも関わらず現在、最も多く生産され使用されている塩化ビニル用可塑剤です。

また、名称及び略称、慣用名、商品名などに非常に多くの呼称があり、また混合物も有るなど紛らわしい物質ですのでCAS登録番号等による識別が必須です。

 

CAS登録番号の検索

REACH規則などの規制対象物質は、物質名とCAS番号が記載されていますので、化学物質と共に、CAS番号を確認することが必須となります。「CAS登録番号から化学物質名を」あるいは「化学物質名からCAS登録番号を」検索するには、日本においてCAS登録番号を管理している一般社団法人化学情報協会にアクセスして調べるのが基本だと思いますが検索は有料で登録が必要です。 その他、情報の正確性という点では多少難があるかも知れませんが「インターネット検索」において、CAS登録番号または化学物質名を入力して検索する事により様々な情報を得る事は可能です。

 また、私的なサイトでもCAS登録番号、化学物質名検索が可能なサイトは幾つかあります。
 例えば、
Chemical Book
日本名・英語名でCAS登録番号、別名、化学物性など検索できます(リンク先は「フタル酸ジオクチル」での検索結果)。
ケムeデータ
 有限会社化学品イー・データ開発が運営するサイト。CAS登録番号、化学物質名から検索可能。目的の化学品について、CAS番号、化審法番号、安衛法番号、分子式、和文名称(別名)、英文名称(別名)のデータと関連する企業一覧を表示します。企業は「製造企業」「取扱企業」「輸入業者」「輸出業者」に分類されており、さらに開発ステージと用途による絞込みができます。企業名をクリックすると連絡先や詳細な情報が表示されます。

 

まとめ

(1) 化学物質の公式名称はIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry:国際純正・応用化学連合)が定めた方法に従って命名されますが、公式名称は時として長すぎるため、通称または俗称や略称によって呼ばれることが多々あります。
(2) 近年有害物質の使用制限規制が広がって来たことから、同じ化学物質でありながら名称や略称が異なるため、別の化学物質と誤認されることによるトラブルや、有害化学物質管理における諸問題が浮上しています。
(3) 有害化学物質の管理を行う場合には、誤認を防ぐためにCAS登録番号により確認を行う事が重要です。
(4) CAS登録番号はアメリカ化学会(American Chemical Society, ACS)が発行する「Chemical Abstracts」という雑誌で使用される化合物を識別するための番号で、同学会の下部組織であるCAS (Chemical Abstracts Service)が、同誌をはじめ各種検索サービスとしてCAS登録業務を行っており、ある法則に則り番号を決定していますので、同一化学物質に重複してCAS登録番号が付与されることはありません。
(5) 但し、化学物質には化学構造式が同じでも、構造の違う「異性体」が存在する場合があり、名前が同じ場合がありますので、その場合には複数のCAS登録番号が付与される場合がありますので注意が必要です。
※異性体には、様々な種類がありますが、あくまでもCAS登録番号で確認することが重要です。
(6) 化学物質は製造の過程で「不純物」を含む場合や、添加物として微量の異種物質を含む場合がありますので、製造元よりの情報入手が重要となります。
(7) CAS登録番号の検索は、一般社団法人化学情報協会に申し込むことで行うことが出来ます。また、上述の「Chemical Book」や「ケムeデータ」のような私的なサイトでも検索は可能ですが、重要な判断のために正確を期すのであれば公的な機関を利用した方が確実かと思われます。

引用・参考文献

注意

情報一覧へ戻る