ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 製品含有化学物質の情報伝達の標準化・国際化に向けて

環境関連情報

製品含有化学物質の情報伝達の標準化・国際化に向けて

経済産業省提唱「chemSHERPA」について

情報発信日:2015-11-27

はじめに

EUのRoHS指令やREACH規則に代表される「製品に含有される有害化学物質に対する規制」は、対象となる化学物質の種類が増加の一途をたどっています。このような規制に対応するためには、規制対象となる化学物質を個々の企業でいちいち分析することは不可能であるため、自社のサプライチェーンの中で川上から受け取った化学物質の含有情報を正確に川下に伝達する必要があります。

しかし、情報伝達のためのフォーマットが各社バラバラでは情報伝達を行う作業が煩雑となり、川上からの情報を川下に正確に伝えることが大変手間のかかる作業になるといえます。このため、RoHS指令に最も影響を受けるとの予想からJEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)の環境安全委員会が中心となり、JGPSSI(グリーン調達調査共通化協議会)という組織を立ち上げ、サプライチェーンの川上企業に対して、原料や部品に含有される全ての化学物質成分の名称及び含有量を一覧表にして提出させるためのフォーマットの共通化を目指しました。このフォーマットは日本とEIA(米国電子工業会)及びEICTA(欧州情報・通信・民生電子技術産業協会)の共同作業で進められ、Join Industry Guideline(略称:JIG)と呼ばれる電気・電子機器製品に関する含有化学物質調査のガイドラインとなりました。

JIGには、含有化学物質調査対象の化学物質に関する情報はもちろん、情報開示を要する濃度(閾値)や現行法によってレベル分けされた物質のリストなどが記載されるように作成されました。

しかし、個別の企業にとっては統一フォーマットでは都合が悪い部分もあるようで、JGPSSIの会員であっても共通フォーマットを使用しなかったり、逆に会員でない企業がフォーマットを使っていたりする場合があるなど、民間の一団体が作成したため、強制力を伴わない書式であり、なかなか浸透しないのが実情でした。

一方、化学物質を製造する原料メーカーや部品メーカーなどを中心にJAMP(アーティクルマネジメント推進協議会)が作られ、サプライチェーン上の情報を共通の書式で円滑かつ効率的に伝達するためのJAMP共通書式を設定しました。JAMPの共通書式は化学品版の”MSDSplus”と成形品版の”AIS”があります。JGPSSIが作成した共通フォーマットは電気・電子製品を対象としているため、JAMPとは根本的な考え方がやや異なるようです。

このような状況において、製品含有化学物質の規制対象数が増加傾向にある中で、経済産業省の主導によって、これらサプライチェーンにおける化学物質の流通情報を川上から川下へ正確かつ簡単に伝達するための共通フォーマット「chemSHERPA」が提示されたものと思われます。

chemSHERPAとは

経済産業省の委託による平成27年度chemSHERPA事務局であるみずほ情報総研(株)は、「chemSHERPAとは『製品含有化学物質の情報伝達共通スキーム』で、製品に含有される化学物質を適正に管理し、拡大する規制に継続的に対応するためには、サプライチェーンにおける製品含有化学物質の情報伝達が必要です。サプライチェーン全体で利用可能な共通スキームです」とし、「『情報伝達と管理の課題への継続的な取組』として共通の物質リストに基づく成分情報、さらに成形品については製品分野ごとに求められる遵法判断情報を追加した、『責任ある情報伝達』を可能とします。製品含有化学物質管理の課題の解決に継続的に取り組みます」と説明しています。

この共通のスキームは2015年10月より運用が開始され、データ作成支援ツールの正規版リリースと併せて各地で使用のためのセミナーが開催されています(データ作成支援ツールのダウンロードはこちらから出来ます)。

 

データ作成支援ツールの構成 (出典:みずほ情報総研/経済産業省他)

データ支援ツールを構成する3つの要素

(1)データ支援ツール
・データフォーマットへの情報の書き込み・閲覧などを行うためのソフトウエア。
・安価な簡易ツールの他、各ベンダーが提供する多機能ツールもある。
(2)データフォーマット
・製品含有化学物質のデータを記述し、事業者間で受け渡しするためのフォーマット。
・「XMLスキーマ」というデータ形式で定められる。
・これを統一するのが最重要ポイント。
注)XMLとはExtensible Makeup Languageの略で、インターネット上で様々なデータを扱う場合に特に利点を発揮する。例えば地図データをXML形式でインターネット上に公開することにより、その地図データを各ユーザーが別々のプログラムで利用することが可能
(3)ITシステム
・データをサプライチェーンの多数事業者間において効率的に授受するための、データベース、情報交換ポータルなどのシステム。
※情報伝達の対象範囲は「物質リスト」として定義される。そのルール化が不可欠。

 

データ作成支援ツールの目的と特徴 (出典:みずほ情報総研など)

・新スキームデータ(XML)を作成・入力を支援するツール。
・成形品用ツールと化学品ツールの2つを開発。
⇒主な特徴は以下の通り。
(1)業種横断的な利用を想定
・成分情報と各業界等が設定する範囲(エリア)の遵法判断のための情報の2つのレベルを設定
・複数のエリアを想定した作り、エリア情報の外部リスト化
(2)提供型と依頼回答型の両方を想定
・自ら提供データを作成/依頼情報を読み込み、情報を追記して回答を作成のどちらも可能
・一製品一ファイル(一品一葉)だけでなく、複数製品を1ファイル(多品一葉)で依頼・回答することも可能
(3)IEC62474準拠
・IEC62474の物質リストに対応(エリアとしてIEC 62474を選択した場合)
・出力ファイルのデータ形式は、IEC62474のXMLスキーマを採用
・IEC62474の必須情報項目を網羅(承認者情報の追加など)
注)IEC42474とは電気電子業界における国際的な製品含有化学物質の情報伝達に関する規格
(4)既存のスキームからの継続性に配慮
・JAMP(AIS、MSDSplus)、JGPSSIの各データの読み込み及び新フォーマットでの変換可能
・JAMP(AIS、MSDSplus)、JGPSSIの情報項目を網羅
・成分入力画面は、AIS、MSDSplusのインターフェースを踏襲し、AISの複合化機能を継承
(5)入力し易いインターフェースとデータ作成支援機能
・物質や除外項目は一覧表から検索して入力することが可能
・作成済みデータの取り込み機能
・成分情報からエリアの遵法判断情報へのデータ変換機能(変換可能な部分のみ)
・成分情報の複合化機能(成形品ツール)
・その他

 

二つのデータ支援ツールを準備 (出典:みずほ情報総研他)

chemSHERPAは、JAMPやJGPSSIなどの既存の製品含有情報伝達システムのデータを継承できるように種々の点で工夫がこらされていますが、JAMPで採用しているようにサプライチェーンの川上に位置する原材料メーカー用(化学品・混合物)と川中/川下に位置する部品最終セットメーカー用(原部品、サブアセンブリ、完成品)に分けた二つの支援ツール(化学品用及び成形品用)が準備されています。

 

(1)化学品用(化学物質や混合物を影響する事業者向け)
・管理対象基準に該当する物質の物質名/含有濃度、その他の製品情報、会社情報などを記載
(2)成形品用(成形品を提供する事業者向け)
・成形品の質量
・構成部品、材質、管理対象基準に該当する物質の物質名及び含有濃度
・指定されたエリアの物質(群)名に対する閾値を超えた含有の有無、指定された単位での含有量、除外用途など(エリア指定をした場合)、その他の製品情報、会社情報など

 

まとめ

環境問題先進圏といわれるEUにおける有害化学物質に関する規制は、電気電子機器を対象とするRoHS指令や、総合的な化学物質管理に関するREACH規則の製品含有有害化学物質規制に代表されますが、他にも残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants: POPs)の製造や使用の制限を行うストックホルム条約、国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての手続に関する条約であるロッテルダム条約、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約などの国際条約から、世界各国における独自の規制まで広がり、使用制限の対象となる化学物質は増加の一途をたどっています。

このような状況において、企業における生産活動では意図した使用以外にも、各種プラスチックの添加剤、塗料、接着剤などには様々な化学物質が含まれており、これらの物質が種々の化学物質規制に抵触する可能性が潜んでいます。

このため、企業においては自社で調達した原料や部品に対して、含有される全ての化学物質の名称及び濃度を把握することが今や必須の業務となっているといえます。

このような状況に対応するためには、各社が調達した原料や部品ごとに、含有される化学物質全てを分析することは経済面において不可能あるため、サプライチェーンの川上事業者が原料及び混合物に含有される全ての化学物質情報を正確に発信し、川中に位置する成形品やサブアセンブリー事業者は、完成品メーカーである川下事業者までこの情報を正確に伝達する必要があります。

しかし、川上事業者から川下事業者まで情報を伝達するには、多くの原料や混合物を様々な工程で加工する川中事業者を複数経由することから、特に川中事業者にとっては情報の複合化が煩雑な作業になります。

ただでさえ煩雑なこのような作業において、川上から流れてくる情報及び川下から要求される情報のフォーマットが各社バラバラでは作業の効率や正確性の上で大きな問題となります。

そこで、各工業会団体や任意団体において、フォーマットの統一が進められてきました。電気電子機器関連でまとめられたJIGや原料及び部品メーカーなどがまとめたJAMPなどが有名であり、特に電気電子機器関係のJIGは国際的な電気電子関連の規格(IEC62474)にまでまとめられました。

しかし、各業界や各企業の特性などによって、フォーマットの最終的な一元化は未だ行われておりません。

以上の状況に対し、今回経済産業省が中心となり各業界に対して共通のフォーマットを提案したのがchemSHERPAといえます。chemSHERPAの特徴は、IEC62474やJAMPなど既存のデータを移行できることや、インターネット上の共通言語ともいえるXML形式を採用するなど、従来からのフォーマットを統合しやすくしている点といえます。

インターネット上に公開されているchemSHERPAのデータ入力支援ツールは無償で使用でき、セミナーも同ように無償で逐次行われております。chemSHERPAは経済産業省が普及を推進していますので、今後日本における製品含有化学物質の情報伝達スキームの主流になる可能性が大と思われますので、早めにセミナーへの参加及びデータ入力支援ツールの試用を行うのが賢明かと思われます。

引用・参考文献

注意

情報一覧へ戻る