ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 今後のエネルギー・環境政策 #1

環境関連情報

今後のエネルギー・環境政策 #1

脱原発は可能か?

情報発信日:2012-10-19

はじめに

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を起因とする「原発ゼロ」の議論が活発化しています。毎週金曜日の夜には永田町周辺で「原発再稼働反対」「原発ゼロ」を訴えるデモが繰り返されています。

一方、原発ゼロにした場合の光熱費や暮らしへの負担増及び二酸化炭素の排出量増加の問題も議論されており、単純に「直ちに全ての原発を廃止する」というわけには行かないようにも思えます。

今後の原子力発電所の在り方や代替エネルギー問題に関しては、原子力発電所の抱える潜在的なリスク、各種発電コスト、各種発電による温室効果ガス放出量などを天秤に掛けて、慎重に判断をする必要性があると思われます。

環境問題というのは、多くの場合このような複数の要因が複雑に絡み合っており、簡単に正解が見つからない場合がありますが、原発ゼロの可否については、もう少しの議論が必要と思われますので、ここでの結論は出しませんが、政府の「エネルギー・環境会議のコスト等検証委員会の報告書」を基に色々な議論・意見が出ていますので、それらを紹介したいと思います。皆様もこれを機会に、もう一度今後のあるべきエネルギー供給の姿を考えて頂ければと思います。


政府 エネルギー・環境会議 コスト等検証委員会報告書

今後のエネルギー政策を議論するうえで、重要な因子の一つは発電コストにあると考えられますが、2011年12月19日付けで政府のエネルギー・環境会議は「コスト等検証委員会報告書」と題した、各種の発電コスト比較を報告しましたので、以下に一覧表にまとめて示します。

これらの試算は、福島第一原子力発電所の事故を受けて、今後のエネルギー・環境戦略を練り直すことを目的として作成されたもので、従来の発電コスト試算とは異なり、再生可能エネルギーやコジェネレーションなどの新たな電源や省エネも対象とし、さらに「単純な発電コストのみならず、事故リスク対応費用やCO2 対策費用、政策経費などのいわゆる社会的費用も加味した試算」として報告がなされています。

また、福島第一原子力発電所の事故費用が未確定であることや再生可能エネルギーの将来的な技術革新や量産によるコストダウンは想定によるものであることから、数字はある程度流動的なものですので、このような前提条件なしに、ここに述べた数字が独り歩きすることは恐い一面もあることを付け加えておきます。


各種発電コストのポイント(以下主に「コスト等検証委員会報告書」より引用)

< 原子力発電 >

そのリスクを考慮すると相当な社会的費用を原価に上乗する必要があるが、福島第一原子力発電所の事故処理費用がどこまで膨らむか現時点で不明なため、下限のコストを試算。

< 石炭火力、LNG火力 >

CO2 対策費用や燃料費上昇を加味すれば今まで以上にコスト高になるが、それでもなお、社会的な費用を加味した原子力発電とのコスト比較において、ベース電源としての競争的な地位を保ちうる。


< 風力・地熱 >

風力や地熱については、立地制約や系統安定・増強といった課題はあるが、これらの課題を解決することにより、条件がよい場所については、原子力、石炭などと対抗しうるコスト水準にあり、一定の役割を担う可能性がある。また再生可能エネルギーであり、有望。

< 太陽光 >

大量導入にあたっては、電力システム全体としての、系統安定化などの課題はあるものの、世界市場の拡大に伴う量産効果によりコストの低下が見込まれ、石油火力よりもコスト面で優位となり、ピーク時の需給の逼迫の改善に資する電源として期待される。何よりも再生可能エネルギーである点が魅力。

< 省エネやコジェネ等の分散型電源 >

大規模集中電源と並びうる潜在力がある。また、需要家から見た場合、電気料金の節約というメリットもある。小水力やバイオマス等は、地域資源の有効活用による新しいエネルギーシステムの構築に貢献しうる。需要家や地域による主体的な選択によって新たなエネルギーミックスの一翼を担いうる。

 

まとめ

上記で多く参照・引用した政府エネルギー環境会議が2011年12月に報告した「コスト等検証委員会報告書」における結論の一部には、「ただし、どの電源も長所と短所があり、今回の試算で、これまでは隠れていたコストが顕在化し、また、導入に向けた課題も明らかになった。新規事業者や需要者といった新しい主体の参画の促進、競争の拡大、技術の革新などによる課題解決が求められるが、多くの課題を克服できる長期的な目標に至るまでの間は、どの電源をどの程度組み合わせていくのかについて、複数のシナリオがありうる。どのシナリオをたどって長期的な目標を目指していくべきか、コストに限らず導入可能量を含め様々な視点から最適な選択をしなければならない」とし、簡単に「原発ゼロ、再生可能エネルギーの導入を急ぐ」と言うシナリオには至らないとしています。確かに無限のエネルギーであり、温室効果ガス放出の少ない再生可能エネルギーに切り替えるのが理想のように思えますが、各エネルギー源ともにポテンシャル(賦存量)には限度があります(例えば太陽光パネルの設置場所は無限ではありませんし、風力発電の風車の設置場所も有限です)し、自然現象任せの再生可能エネルギーですから天候や季節、昼夜と言った条件により発電量がどうしても左右されてしまうため、ベースとなる電力とピーク時に自然現象に頼ることなく発電できる電源の確保、あるいは、効率の良い蓄電池の開発など様々な課題があり、どの電源をどの程度にするかといった「電源ミックス」と「電力の受給に合わせて最適な電力ミックスを選定する電源系統制御システムの構築」など、大きな課題があることがわかります。

これらの、資料を基に政府エネルギー・環境会議は2012年9月14日付けで「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめて答申し、これを受けて野田総理大臣は2012年9月19日の閣議において「今後のエネルギー・環境政策について」を閣議決定しました。

原発ゼロ推進派の人達は、これに「原発ゼロ」が盛り込まれなかったとして反発していますが、一方でマスコミ各社は「原発ゼロで電気代2倍?実は維持でも1.7倍」(朝日新聞2012年9月28日)、「原発ゼロで暮らしの負担、更に重く電気料金や光熱費2倍に」(産経新聞2012年9月15日)、「原発ゼロで電気代高騰は本当か」(東京新聞2012年9月4日)、「電気代倍増、より厳しいCO2削減・・・エネルギー・環境会議で「原発ゼロ」の課題を議論」(産経新聞2012年9月4日)、「原発ゼロで光熱費月3万円超政府試算、10年比2倍に」(2012年9月3日)と、原発ゼロが難しいという論調が多いようですが、原発ゼロ問題による電気料金の高騰は個人の生活はもちろん、企業の国際競争力にも影響する重要な問題と言えるため、経済界は原発ゼロには反対の姿勢を見せています。

このような中において政府も「これからのエネルギー政策は一部の人が決めるのではなく、多くの人が議論する中で方向性を決めるべき」と述べていますので、この機会にぜひ皆さんも、このエネルギー・環境会議の報告書を良く読んで頂き、感情論ではなく数字に裏付けされた原発ゼロの可否の議論に参加して頂ければと思います。

エネルギー・環境会議がまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」については、別の機会にレポートしたいと思います。

引用・参照情報

注意

情報一覧へ戻る