ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 今後のエネルギー・環境政策 #2

環境関連情報

今後のエネルギー・環境政策 #2

「革新的エネルギー・環境戦略」が提案される

情報発信日:2012-11-21

はじめに

前月のコラムにおいて、「東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を起点とする『脱原発・原発ゼロの議論』が活発化し、政府の諮問機関であるエネルギー・環境会議が将来の我国のエネルギー政策の方向性・在り方を検討していること」をお伝えしました。

ここでは、「脱原発・原発ゼロ」の可能性と脱原発を行う場合の課題や方向性などを総合的に検討し、最大の問題となる代替電源のコストについて、原発の災害対策費や火力発電における温室効果ガス対策費などを上乗せして試算し、再生可能エネルギーのポテンシャル、複合的な発電エネルギーの切換・制御システム、送電システム、効率的な蓄電システム、地球環境への影響、安定性や将来的な技術開発動向をも見据えた上での多角的な検討が行われてきました。その結果が2011年12月9日付けで「コスト等検証委員会報告書」として報告されたことを述べました。

本報告書では、種々の調査結果が述べられたに留められていますが、この報告書の内容を基に多くの議論が重ねられ、エネルギー・環境会議は2012年9月14日付けで政府に対して「革新的エネルギー・環境戦略」を答申しました。政府はこの答申を受けて今後はこの戦略に則り、早期に「脱原発・原発ゼロ」を目指すことを2012年9月19日の閣議で決定しました。今回はこの革新的エネルギー・環境戦略とはどんな内容なのか、その概要について述べて行きたいと思います。


革新的エネルギー・環境戦略とは

従来、我国では発電によるエネルギーの確保については安定的で且つ温室効果ガス発生の少ない原子力発電に対する依存度を高める方向で進んできました。しかし、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を起点として、これまで進めてきた国家エネルギー戦略を白紙に戻して、環境問題を含めた長期的なエネルギー戦略の見直し・策定を緊急の課題として取り上げて検討してきました。

このような状況において、短絡的に「直ちに全ての原発の稼働を停止し再生可能エネルギーの普及を急ぐ」という方向で良いのか、発電コスト問題、電力需給バランス、再生可能エネルギーのポテンシャル、安定的な電力供給、温室効果ガス排出低減などを総合的に考えるとともに、「一握りの人々が作る戦略」ではなく「国民的な議論で作る戦略」であり、さらに今回の事故で原子力エネルギーの利用が困難になった状況ではありますが、「受身の縮小戦略」ではなく、省エネルギーや再生可能エネルギーの利用を劇的に拡大するなど、「前向きな成長戦略」にするべきである、などとしています。


基本的な考え方(以下「革新的エネルギー・環境戦略」より引用)

革新的エネルギー・環境戦略」は、省エネルギー・再生可能エネルギーといったグリーンエネルギーを最大限に引き上げることを通じて、原発依存度を減らし、化石燃料依存を抑制することを基本方針とし、これまでの広く多様な国民的議論を踏まえ、次の3本柱を掲げています。

第一の柱は、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」。これを確実に達成するために、3つの原則を定める。これにより、第二の柱「グリーンエネルギー革命の実現」を中心に、2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。その過程において安全性が確認された原発は、これを重要電源として活用する。

第二の柱が、「グリーンエネルギー革命の実現」。消費者を含む多様な担い手が主役となる新しい仕組みを構築し、「グリーン成長戦略」を強力に推し進めるとともに、多くの国民の協力を得て、グリーンエネルギーが自ずと普及・拡大してゆくような社会システムへの変革も進めていく。そして、この挑戦を通じて、グリーンエネルギーを、社会の基盤エネルギーとして確立し、安定性の向上や地球環境の保全を図るとともに、新たな経済成長分野の出現を促していく。

そして、第三の柱は、「エネルギーの安定供給」。第一、第二の柱を実現するためにも、エネルギーの安定供給の確保は極めて重要な課題である。この観点から、化石燃料などのエネルギーについても、十分な電源を確保するとともに、熱的利用を含めたさらなる高度な効率化を図る。並行して、次世代エネルギー技術の研究開発を加速する。 さらに、以上の三本柱を実現するために、「電力システム改革」を断行する。エネルギー需給の仕組みを抜本的に改め、国民が主役となるシステムを構築する。具体的には、市場の独占を解き競争を促すことや、発送電を分離することなどにより、分散ネットワーク型システムを確立し、グリーンエネルギーを拡大しつつ低廉で安定的な電力供給を実現する。

 

具体的な方向性(「革新的エネルギー・環境戦略」より抜粋)

1.原発に依存しない社会の一日も早い実現

(1) 原発に依存しない社会の実現に向けた3つの原則
① 40年運転制限制を厳格に適用する。
② 原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする。
③ 原発の新設・増設は行わない。

以上の原則を適用して、2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入し、政府が2012年末までにまとめる「グリーン政策大綱」に具体的な方策を盛り込む。

(2) 原発に依存しない社会の実現に向けた5つの方策

 長い間先送りしてきた、使用済み燃料の処理・処分問題、すなわち原子力のバックエンド問題の解決に正面から真摯に取り組み、これを解決する努力をする。また、今後の廃炉や使用済み核燃料の扱いなど、原発に依存しない社会の実現に向けた人材や技術の維持・強化を進めるべき。
① 核燃料サイクル政策
② 人材や技術の維持・強化
③ 国際社会との連携
④ 立地地域対策の強化
⑤ 原子力事業体制と原子力損害賠償制度

(3) 原発に依存しない社会への道筋の検証

 原発に依存しない社会の実現に向けた道筋は必ずしも一本道ではなく、かつ長い道のりだと思われます。また、今後の国際情勢や技術開発の動向などによっても大きく左右される可能性もあるため、現時点で将来を正確に見通すことは困難であるが、政府は原発に依存しない社会へ向けて、グリーンエネルギー拡大状況、国民生活・経済活動に与える影響、国際的なエネルギーの情勢、原子力や原子力行政に対する国民の信頼度合い、使用済核燃料の処理に関する各自治体との連携、国際社会との関係など、あらゆる点について、常に情報を開示して検証を行いつつ、不断に見直していくのが良いとしています。

2. グリーンエネルギー革命の実現

 温室効果ガスによる地球の気候変動防止を目的として、福島第一原子力発電所の事故以前より、すでに国際的な規模でグリーンエネルギー革命とも呼ぶべき再生可能エネルギーによるイノベーションが始まっており、風力発電や太陽光発電などが実用段階に入ってきています。 一方では、情報通信技術の活用や効率的な蓄電池技術、各種省エネ電気・電子機器の技術開発、またコジェネなどによる排熱利用などによる、省エネ・省電力化も進んできています。しかしながら、現段階では、高コスト、自然現象から来る不安定さ、送電システムや系統の最適切換などのインフラ整備、効率的な蓄電システムなど種々の課題が山積していますが、「グリーンエネルギーを主要な電源にしよう」という明確な意思を持って、技術革新への投資や政策の誘導などにより、これを加速して行く必要があるとしています。

 以下、主なテーマを紹介します。

(1) 節電・省エネルギー

2030年までに2010年度比で-10%(1,100億kWh、最終エネルギー消費は-19%)を目標
① 家庭・業務部門の省エネ
・LEDなどの高効率照明、高効率空調など省エネ機器の導入推進
・エコキュートなどの給湯や家庭用燃料電池の高効率化と導入促進

②産業部門における省エネ
・設備更新時の省エネ機器導入、製造プロセスの技術革新

③住宅・ビルの省エネ
・新築住宅・建築物への省エネ基準適合の義務化、既存住宅への省エネ改修促進など

④熱利用の効率化による省エネ
・都市排熱の利用(工場排熱、清掃工場排熱、発電所排熱など)
・再生可能エネルギー熱利用(地中熱、太陽熱、河川熱、下水熱、雪氷熱、バイオマス熱など)

⑤次世代自動車

⑥スマートメーターの設置などエネルギー消費の見える化

⑦スマートコミュニティ等地域や都市における省エネルギー

⑧負担などの説明
・一定の設備投資による国民への負担への説明

(2)再生可能エネルギー

 再生可能エネルギーは、2010年1.100億kWhから2030年までに3,000億kWh(3倍)以上にする。

①再生可能エネルギーの大量導入
・固定価格買取り制度による民間投資の誘発
・公共施設等に対する公共投資の実施(太陽光発電、蓄電装置など)
・地域主導の導入加速化 ・立地規制対策、環境影響評価手続き
・系統強化策(風力発電導入促進のため、送電網整備)
・系統安定化対策(太陽光や風力といった不安定電源導入対策、火力発電の確保、送電網の広域化、大型蓄電池導入など) ・再生可能熱の利用拡大
・研究開発と実証(高効率太陽光発電、洋上風力発電、高密度蓄電池、高度地熱開発、その他)
・国民への負担説明

3. エネルギー安定供給の確保の為に

 再生可能エネルギーなどのグリーンエネルギーの最大の問題は自然現象に依存するために、原子力発電や火力発電など従来の発電に比べると不安定である点が最大の短所といえます。今後のエネルギーを考える上では3つのEが必要と言われており、エネルギーの安定供給の確保(Energy Security)、環境への適合(Environment)及び経済性(Economic efficiency)の3つを満足させる必要があります。将来的には再生可能エネルギーを効率良く蓄電し、使いたい時に使うというのが理想の姿だと思われますが、現状では経済面、安定性の面で問題があると言えます。このような状況において、現状では火力発電が最も安価で安定的に電力を供給できる唯一の方法と言えます。ただし、火力発電も過去に比べると、特に日本においては極めて高効率な火力発電がなされており、将来的にはさらに研究開発が進み高効率で環境に優しい火力発電の実現が進められています。

(1)火力発電の高度利用
①LNG火力発電(石油火力に比べてCO2排出が少ない)
②石炭火力発電(石炭の微粉炭化と超高温燃焼)
③適切な電源ミックス
④高環境影響評価

(2)コジェネなどの熱の高度利用
①燃料電池を含むコジェネ(熱電併給)の最大普及によるエネルギー有効利用を図る
②都市排熱(工場排熱、太陽熱、河川熱、下水熱、雪氷熱、バイオマス熱など)の有効利用

(3)次世代エネルギー関連技術の利用
①メタンハイドレードなど未利用エネルギー分野の利用
②水素ネットワークなど次世代エネルギーネットワークや二酸化炭素回収(CCS)などの実用化研究実施

(4)安定的かつ安価な化石燃料などの確保及び供給
①化石資源の乏しい我国におけるエネルギー資源確保戦略として、資源国と包括的かつ互恵的な二国間関係の構築・強化
②海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に基づく海洋エネルギーの開発強化を図る
③今後の天然ガスシフトを支えるための国内パイプラインなどインフラ整備
④エネルギー安全保障のための石油・LPガスの備蓄、サプライチェーンの維持強化、災害対策の実施

4. 電力システム改革の断行

 「原発に依存しない社会の一日も早い実現」、「グリーンエネルギー改革の実現」、「エネルギー安定供給の確保」の三本柱を実現するためには、エネルギーを巡る仕組みを抜本的に改める必要があります。これは、従来であれば原子力発電、火力発電、水力発電などの大規模発電を電力会社が独占してきたやめ、政府と電力会社の合意によってある程度は最適な電源構成ミックスを予め規定することが可能でしたが、今後は個人を含めた多様な電力供給者が再生可能エネルギー発電に参入すると同時に、多くの消費者が選択する省エネなどによる結果が電源構成ミックスとなります。

 このように、従来は実質的に寡占であった発電事業が自由競争になりますので、誰もが自由に使えるネットワークが必要になると予想され、分散型ネットワーク型システムを構築することが「電力システム改革」が必要になります。

(1)電力市場における競争促進
①小売市場の全面自由化を行い、国民が電力を自由選択できるようにする
②電力の卸売に関する規制の撤廃、卸電力取引市場の活性化、発電コストダウン競争の促進

(2)送配電部門の中立化・広域化
①発電事業と送配電事業を機能的または法的に分離することにより、再生可能エネルギーやコジェネを含むあらゆる発電事業者に送配電網を中立・公平に開放する。
②地域をまたいで系統を運用する中立的な機関を創設し、送配電網の広域運用を行い、再生エネルギーの不安定性を緩和し、広域的に供給力を有効活用する仕組みに転換する。
③再生可能エネルギーを含む広域的な供給力の有効活用のため、及び、市場を活性化するため、地域間・地域内の送電網の増強を進める。

5.地球温暖化対策の着実な実施

 地球温暖化防止を目的とした温室効果ガスの削減は、人類共通の課題であり今回の原子力エネルギーに依存しないエネルギー政策への転換によっても、第四次環境基本計画による2050年までに温室効果ガス80%削減の目標は原則維持する。

まとめ

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故によって、我が国の電気エネルギー供給戦略は従来の原子力発電への依存度を高める方向から、原子力発電に依存しない戦略へと180度転換せざるを得ない状況になりました。

このような状況において、「直ちに全ての原子力発電所の稼働を停止し、再生可能エネルギーへの転換を迅速に促進するべき」という極論もありますが、電気エネルギー供給戦略の大幅な転換においては3つのEを満足させなくてはならないとされています。即ち、エネルギーの安定供給の確保(Energy Security)、環境への適合性(Environment)、及び、経済性(Economic efficiency)が必要になります。このような観点で考えると、経済面と安定供給面では火力発電が優れていますが、環境面で問題があります、一方の再生可能エネルギーにおいては環境面では優れていますが安定供給と経済面では問題があります。

しかしながら、現実にはこのような困難な状況においても一日も早い原子力エネルギー依存体質から脱却する必要性があります。その道筋は一本道ではなく、色々な道筋が考えられますので、一握りの人達が方向性を決定するのではなく、広く国民が議論を継続し、受身の縮小戦略ではなく、前向きな成長戦略を描くべきと結論しています。

具体的には、多くの課題を抽出してその方向性については述べていますが、当面は火力発電の燃料を石油からLNGに切換えることや、より高温での燃焼によるエネルギー効率向上などにより環境負荷の少ない火力発電への転換を図ると同時に、再生可能エネルギーの技術革新と発電事業と送電事業の分離による発電自由競争化などによるコストダウン推進、安定供給のための送配電網の広域化整備など大きな課題は山積していますが、方向としてはグリーンエネルギーの急速な普及推進と省エネ・排熱の再利用など総合的な施策の実現に向けての提言となっています。なお、このエネルギー政策の大転換によっても、第四次環境基本計画に盛り込んだ温室効果ガスの削減目標は達成することも併せて求めています。

これを機会に、家庭・個人及び企業や組織におけるエネルギー利用について議論する機会を設けて頂ければ幸いです。

引用・参照情報

注意

情報一覧へ戻る