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動物由来感染症について #1

中国で鳥インフルエンザがヒトに感染

情報発信日:2013-05-24

はじめに

中国政府は2013年3月31日付けで「H7N9型鳥インフルエンザウイルスが世界で初めて人に感染した」と発表しましたが、それ以降、4月17日配信のWeb版毎日新聞は「中国上海市の衛生当局は16日、鳥インフルエンザウイルス(H7N9型)の感染者が新たに6人確認された。このうち2人は死亡した。また、浙江省で5人、江蘇省でも3人の感染が確認された。これで感染が確認されたのは2市4省で計78人、このうち死者は16人となった」と報道しました。

次いで、日々中国での鳥インフルエンザ情報が伝わってきますが、4月21日付け朝日新聞朝刊では「感染者は2市4省で計97人(うち死者18人)に広がった。2割以上の患者に急性の呼吸障害が起きていた」と伝え、さらに翌22日付け朝日新聞は「中国の鳥インフルエンザ感染者は2市4省で103人(うち死者は20人)」、ゴールデンウイーク明けの5月7日現在では、中国国際放送によると「感染者129人に、31人死亡」と報じ、依然として感染が拡大している様子が伺えますが、今のところ指数関数的な増加には至っていないようです。

今回の中国における鳥インフルエンザのヒトへの感染問題は、従来の鳥インフルエンザの鳥からヒトへの感染と異なり、ウイルスの宿主である鳥が発症していないため、「どこまで感染が拡大しているか?」の把握が難しいため、感染の拡大防止処置が講じ難い点にあります。

さらに、このウイルスが変異しヒトからヒトへの感染を起こすようになると、爆発的な感染の拡大(パンデミック)に至る危険性を秘めているため、日本など近隣諸国やWHO(世界保健機関)などが警戒を強めています。

本来、ヒトのインフルエンザは厚生労働省、動物のインフルエンザは農林水産省の管轄ですが、環境省においても「ヒトと動物共通の感染症に関するガイドライン」を公表するなど環境問題として取り上げていますので、今回はこの話題を環境問題として取り上げ、「細菌とウイルスの違い」「風邪とインフルエンザの違い」など、知っているつもりで意外と知らないこともありますので、これらも含めて解説したいと思います。

 

風邪とインフルエンザの違い

一般に、風邪もインフルエンザもウイルスによる感染症で同じような症状を示しますが、風邪は症状も軽く伝染性が少なく、インフルエンザは症状が重く伝染性が強いという違いがあります。


(出所:アステラス製薬ホームページより; 加地正郎:臨牀と研究 79:2049, 2002一部省略より引用)

一般的にインフルエンザは、重症化しない限り1週間程度で症状は治まりますが、高齢者などで肺炎などを併発すると重篤化する心配もあります。但し、感染源のウイルスの毒性の程度によって、重篤化する確率は異なるようです。

 

ウイルスと微生物の違い

ウイルスは細菌や真菌(カビ)などと同じように感染症を引き起こすため、ウイルスを微生物の一種と勘違いしている方も多いかと思いますが、ウイルスは生き物ではありません。ウイルスは基本的にはタンパク質と遺伝子のみから構成される微粒子で、細胞壁を持たないため単独では増殖できず他の細胞に入り込むことにより、はじめて増殖します。また、生物の細胞には遺伝子としてDNAとRNAの両方の核酸がありますが、ウイルスはDNAまたはRNAどちらか一方しか持っていません。 以下に、一般的な原核生物(大腸菌などの細菌)とウイルス及びその他の微生物などの特徴を示します。

 

表2で示す通りウイルスは生物とは異なる証拠が幾つかあります。
(1) ウイルスは一般の細菌などの単細胞生物と異なる非細胞質であり細胞壁を持たない。基本的にはタンパク質と核酸からなる粒子状物質。
(2) 大部分の生物は細胞内部に遺伝子であるRNAとDNAの両方の核酸を有しているが、ウイルスはどちらか一方しか有していない。
(3) 大部分の生物の細胞は2n指数関数的に増殖するが、ウイルスは一段階増殖する。
(4) ウイルス粒子は見かけ上消えてしまう暗黒期が存在する(潜伏期と一致、細胞内でウイルスが脱穀し、ウイルス蛋白や核酸の合成を行っている時期で、その後子孫ウイルスが細胞から放出され再検出される)。この点が、リケッチャやクラミジアと異なる。
(5) ウイルスは単独で増殖できない。他の生物の細胞に入り込んで(寄生)のみ増殖できる。(この特徴はウイルスだけでは無くリケッチャやクラミジアなど生物にも見られる現象)
(6)ウイルスは自分自身ではエネルギー生産しない。寄生した細胞のエネルギーを利用(一般生物は自身が生きるためのエネルギー生産ラインを持っているが、ウイルスはそのラインを有しておらず、宿主細胞に完全に依存しているため、宿主細胞の中でのみ増殖が出来る)。
(7) 一般にウイルス性疾患には抗生物質が効かない。

 

ウイルスの種類とインフルエンザウイルス

ウイルスは現在数百種類が存在すると言われていますが、大別すると発疹系(水痘<みずぼうそう>、麻疹<はしか>、流行性耳下腺炎<おたふくかぜ>、今年流行の風疹<三日はしか>など)、呼吸器系(インフルエンザや肺炎など)、肝炎系(A型、B型、C型など)、神経系(小児麻痺、日本脳炎など)、出血系(黄熱病、てんぐ熱、ラッサ熱など)、皮膚・粘膜系(ヘルペス、結膜炎など)、その他(AIDSなど)。また、感染しても何も発症しないものもあります。感染性ウイルスでも、毒性の強さや特異性により大量のウイルスに感染していても発症しない場合、また発症までに長い時間がかかる場合もあります。

インフルエンザのウイルスはもともと、鴨などの水鳥の腸管などを宿主とする弱毒性のウイルスが変異してヒトに感染しるようになったと言われています。種類としては現在までにA型、B型、C型が発見されていますが、毎年冬場に流行するのがA型とB型ですが、ウイルスは変異しやすく、「亜型」と呼ばれるものが多く存在します。インフルエンザウイルスの表面にはヘマグルチニンとノイミニラーゼと呼ばれる突起がありますが、この突起の形(ヘマグルチニン:Hは16種類、ノイミラーゼは9種類)の組合せにより「A/H2N2(Aアジア型)、A/H3N2(A香港型)というように、HとNの番号を使って表されます。

図1 インフルエンザウイルス亜型のイメージ (アステラス製薬ホームページから)

したがって、現在中国で流行しているH7N9型とは、ヘマグルチニンが7型、ノイミニラーゼが9型という意味になります。

冒頭に述べたように、インフルエンザウイルスはもともと野鳥の体内にあって、これが人に飼われた鶏やアヒルなどに感染し、たまたま変異によりヒトに感染するようになったと思われます。さらに豚などの家畜に感染し変異することにより、ヒトからヒトに感染するようになると、大流行にすることになります。

ウイルス種が既に特定されていますので、早めのワクチン投与や重症化する前に抗ウイルス薬などを服用することにより感染拡大を抑えることは可能と思われます。

 

まとめ

以上のように、ウイルスは生物ではなく、タンパク質と遺伝子のみを有する微粒子ですが、生物の細胞の中に入り込み、偽の遺伝子情報を流し、宿主に自分のコピーを作らせ増殖します。ウイルスは現在数百種類が存在し、その毒性の強さや種類によって様々な疾患を引き起こします。また、容易に短期に変異し亜型と呼ばれる新しい種類が作られます。

通常は、生物の種の違いにより異種生物間の疾患は伝染しない場合が多いのですが、ウイルスの場合には、例えば鳥のウイルスが共通性を有する豚に感染し、これが変異し豚と共通性の多いヒトに感染するというように、種を越えて感染が拡大する場合が多く見られます。

鳥インフルエンザの他にも、最近では2013年1月から2月頃にかけて、山口県などでマダニを媒介したSFETウイルスと呼ばれる新種のウイルスによる重症熱性血小板減少症候群により、発症から1週間で亡くなるという例が報道されました。

2013年5月14日、テレビのニュースを見ていたら、数年前に流行したコロナウイルスによる新型肺炎(サーズ)が再び流行の兆しを見せていることにWHOが懸念を表明していると報じていました。

また、子宮頸がんや肝がんの原因も多くがウイルスによるものと判明しています。 ウイルスは必ずしも全てが重篤な疾患を招くものではありませんが、短期間に容易に変異を繰り返すことによって、弱毒性であったものが突然強毒性に変化する場合もあります。

特に、ヒト以外のペットや家畜などの異種生物からの感染が最近多くなっているようですので、通常の生活の中でも常に清潔・衛生に気を付けることが大切と言えます。

今回は話題になっている鳥インフルエンザについて述べましたが、次回は動物由来の感染症の全般について述べたいと思います。

最近は、ペットを室内で飼う傾向が増えているようですので、この辺の注意についてもできるだけ触れてみたいと思います。

引用・参照情報

注意

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