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EUにおける最近の環境政策 #1

欧州委員会「欧州資源効率プラットホーム」とは

情報発信日:2013-09-30

はじめに

JETRO(日本貿易振興機構)は2013年8月9日付けの通商公示において、「『欧州資源効率プラットホーム(EREP)』のジョン・ブルトン議長は『製品パスポート(Product Passport)』が循環型経済へ移行するための『重要なイノベーション』だと主張する。製品パスポートは、EREPが6月17日に発表した『資源効率的な欧州に向けた行動(Action for a Resource Efficient Europe)』でその活用が提言されており、今後、この提言を受けた欧州委員会、加盟各国政府など政策当局やビジネス界の動きが注目される」と報じました。

EUは温室効果ガス放出量の削減、化学物質の規制など環境分野での政策や規制において世界の先端を走っていますが、2012年に設置された「欧州資源効率プラットホーム(EREP)」とは何か、このEREPが提唱する「製品パスポート」とは何か、さらにはEREPが2013年6月17日付けで発表した「資源効率的な欧州に向けた行動」にはどんな内容が記載されているのか、興味のあるところだと思われます。

そこで、本コラムにおいてはこれら一連の動きを解析して、EUの環境政策が今後どのような方向を目指して行くのかについて、何回かに分けて述べて行きたいと思います。

今回は第1回目として、主に「欧州資源効率プラットホーム(EREP)」とは何かについて解説します。

 

欧州資源効率プラットホーム(The European Resource Efficiency Platform;EREP)とは

2012年6月5日、EU委員会のポトチュニック環境担当委員は「どのようにすれば、より少ない資源により、より多くの成果を上げられるか? 委員会は、資源効率の改善に対してハイレベルな投入を結集する」と題した発表を行いました。

この発表では、「欧州経済をより持続的に成長させることを目的として、具体的な政策や措置を講じるために、高度な指導や助言を行うことを任務として欧州資源効率プラットホーム(EREP)が設置された」と述べられています。また、「資源の効率的な利用によるEUの持続可能な成長は『欧州2020戦略』の大きな柱の一つであり、EU委員会の最優先事項である。そして、EREPの主要な仕事は、『資源の使用とそれによる環境への影響とを経済成長から切り離す』という最終的な理念を含めて、EU委員会で設定した計画を達成するための具体策を決定することにある」とも述べられています。

即ち、少ない資源をいかに効率的に使って最大の効果を上げるかを追求することが持続的な成長をもたらすものであり、現在のような資源浪費を続けていては経済的に立ち行かなくなるという危機感のもとに、資源の最大効率化を目指しEREPが設置されたということです。

EREPの構成メンバーは、EU委員会から5名、EU議会から4名、種々の分野の企業の代表9名、その他EU環境大臣、国際組織機関、市民社会、学界から選出された計34名により構成されており、メンバーの幅広い経験と技術を集結させることで、加盟国や市場関係者等に有効な助言を提供できると期待されているとしています。EREPは、資源効率に関する関係者相互の情報交換も目指しており、ウェブ上の「オンラインプラットフォーム」経由で誰でも自由に議論に参加できるようにもなっています。

EREPが設置され、次のステップとして12ヶ月(2013年6月頃)後に最初の提言を行い、2014年末までに第2回目の提言を行う計画のようです。

 

資源効率の最大化を追求する背景

現在、EU全体の中期戦略は、とりあえず2020年を目標に種々の展開が図られており「欧州2020戦略」と呼ばれています。この戦略を推進し、着実に成長をするための要素として研究開発や環境問題、イノベーションなどが位置づけられています。

そして、この成長戦略を推進する幾つかの主要な基本方針はフラッグシップ・イニシアティブ(Flagship initiatives)と呼ばれ、その全体を欧州2020フラッグシップ・イニシアティブ(The Europe 2020 Flagship initiative)と呼びますが、その中に資源効率に関する中期目標達成のためのロードマップも盛り込まれています。

さらに、長期計画としては「2050年までにEU圏の経済を持続可能な成長が行えるように変革することを目指し、将来的な幸福と繁栄に不可欠である資源効率の高度化を達成する道筋を描く。また、欧州2050戦略におけるロードマップでは、色々な課題の中で資源問題を中心に、EU及び加盟国レベルで政策や構造変革を必要とするような、統合的で大胆な変更を提案していく。さらに、ロードマップでは、法律、市場での金融商品、資金の調達手段も含めた持続可能な生産と消費の促進など、様々な面での推進に関して提言する」としています。

 

資源効率化プラットホームの意義

資源の効率化は環境への影響を最小限に抑えながら、持続可能な方法で地球の限られたリソースを使用することを意味します。それは、私たちは少ないリソースでより多くを作成するために、より少ない入力でより大きな価値を提供することができると言えます。

「欧州2020戦略」の一部である「欧州2020フラッグシップ・イニシアティブ」の『資源の効率化』の項は、スマートで包括的、且つ、資源の効率的な利用と低炭素社会の実現による持続的な成長への変革に向けたEUの成長戦略を示しています。

資源の効率化へのロードマップは、将来の計画に対する具体的な行動のための枠組みを規定するもので、「欧州2020フラッグシップ・イニシアティブ」という複数の戦略の中の一つの柱です。2020年までに達成するべき目標を含め、2050年までに必要とされる構造改革と技術変革について述べています。

資源の効率的な利用とは、地球の限られた資源を持続可能な方法で使用することを意味します。私達人類が生存していくためには金属、その他の鉱物、水、土地、木材、肥沃な土地、清浄な空気及び生物の多様性などの天然資源が必須であり、それらの全てが我々の経済活動を維持するためには重要なものと言えます。

それゆえ資源効率の向上は、欧州の成長と雇用を確保するための鍵となります。それは、経済成長の機会をもたらし、生産性の向上、コスト競争力の向上をもたらすでしょう。そして、このためには新製品や新しいサービスの開発、資源利用を減らし、廃棄物を最少に抑え、消費行動、最適な生産工程、管理及びビジネス手法の改善、物流の改善など、既存概念を壊す種々の新しい方法を模索する必要があると言えます。

また、資源利用の効率化は、技術革新を誘発する新しい輸出市場を開拓し、新規に急速に発展する「グリーン技術」に関する雇用を高め、これによる「持続可能な製品」は消費者に多くの利益をもたらすともいえます。

 

Resource Efficient Europeのロードマップ

「資源効率ヨーロッパ(Resource Efficient Europe)<COM(2011)571>」におけるロードマップでは、欧州の経済を2050年までに持続可能なものに改革する方法が説明されており、資源の生産性を高め、資源使用量と経済成長性と環境への影響の相互関係を切り離す方向性を提案しています。

主な資源は、そのライフサイクルとバリューチェーンの視点から分析しますが、食糧関連、住宅関連、輸送関連の3分野が最も環境負荷の大きな分野と言えます。これら3つの分野での対策は既存の政策を補完するための提案となります。

資源効率化のためのロードマップは、将来的な行動計画を提示し、正しい道筋で実行可能な枠組みを提供するものです。2020年までに到達すべきマイルストーンは、2050年までに必要な構造的、技術的な変革に対するビジョンを示します。また、これらのマイルストーンは、欧州における効率的な資源利用と持続的な成長への道筋に対して、「何が必要か?」についても説明しています。

 

まとめ

現在、EUでは2020年までの中期戦略と、2020年までの長期戦略が立てられて実行に移されています。その中身は研究開発やイノベーションが主な柱となっていますが、EUの経済を立て直し持続可能な成長へと改革するための優先事項として、資源の高効率化があります。出来るだけ少ない資源を使って、最大の効果を出すためには、具体的にどのような方策を立てて進めるべきかを議論し、提言するための機関としてEU委員会、EU議会、産業界、環境大臣、学界など様々な分野から選ばれた人々によって設立されたのが、本コラムのテーマである欧州委員会「欧州資源効率プラットホーム(EREP)」ということになります。

この機関は34名の委員から構成され、2012年半ばまでに、第一回目の政策提言をまとめ、2014年までに第二回目の政策提言を行うことになっています。また、この機関に対しては、誰でも意見を提案することが出来るようにオープンになっています。

この「欧州資源効率プラットホーム(EREP)」のジョン・ブルトン議長が最近「『製品パスポート(Product Passport)』が循環型経済へ移行するための『重要なイノベーション」だと主張しました。さて、この『製品パスポート(Product Passport)』とは、どんなもので、どのようなメカニズムで循環型経済に移行できると主張しているのでしょうか?

このような制度が導入されると、日本にも影響が出る可能性がありますので、次回はこの『製品パスポート(Product Passport)』について、解説したいと思います。

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