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環境関連情報

温室効果ガスの国内排出権取引制度について

オフセット・クレジット(J-VER)制度とは

情報発信日:2011-10-27

はじめに

地球温暖化の原因とされる二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの排出量を削減するために、京都議定書では条約締結国に対して排出量の削減目標を設定しました。しかしながら、「自国内での削減目標達成が不可能な場合に、削減目標を上回った他国から不足分を金銭で購入する制度」や「他国における植林など温室効果ガス排出削減活動を行った場合には国内分と相殺させる制度」などが設けられ、通称「京都メカニズム」と呼ばれています。一般には「温室効果ガスの排出権取引制度」と言われ、具体的には国家や企業など課せられた温室効果ガス排出量枠に対して目標量を上回った分についてクレジット化し市場で売買されることになります。

この制度は、国家間あるいは国外の企業や事業体との間での取引が想定されていますが、各国の国内での取引制度も構築されており、今回は日本国内における排出権取引について解説します。

キャップ・アンド・トレード方式とベースライン・クレジット方式

京都議定書の附属書Iに各国の温室効果ガス削減目標が定められていますが、同時に排出権の取引を認めています。この排出権の取引には2つの手法があります。1つはキャップ・アンド・トレード方式と呼ばれ、政府が定めた総排出量を個々の事業体や自治体などに配分し、その余剰分や不足分を取引する制度です。もう1つのベースライン・クレジット方式は個々の事業体や自治体には配分せず、温室効果ガス削減プロジェクトを行い、プロジェクトがなかった場合と比べて削減された分をクレジットとして認定して取引する制度ですが、ほとんどの場合はキャップ・アンド・トレード方式が採用されています。

日本国内における排出権取引

京都議定書における排出権取引は基本的に国家間あるいは国外との企業間などで行われますが、国内においても政府が定めた温室効果ガスの排出枠をお金で取引する制度が考えられ、EU域内では2005年からこの制度がスタートしています。実際の取引は企業間の直接取引もありますが欧州気候取引所という取引所が設立され、株のように取引所での売買が行われています。日本でも2008年10月に政府が取引参加企業の募集を開始しました。

それでは、実際に目で見ることがむずかしい「温室効果ガスの排出量」はどのように取引がなされるのでしょうか?

たとえば「100トンの温室効果ガス削減活動とは?」あるいは「重油100トンの使用量削減による温室効果ガス削減量とは?」、「100kWの太陽光発電導入による温室効果ガス削減量は?」このような個々の温室効果ガス削減活動に対する算定法とこれを検証する信頼性の高いシステムがないとこの排出権取引制度は成り立ちません。

オフセット・クレジット(J-VER)とは

上述したように温室効果ガスの排出権を取引するためには信頼性と信用度の高いシステムが必要であり、そこで作られたのが「J-VER制度」と呼ばれるシステムです。環境省によると「『カーボン・オフセットに用いられるVER(Verified Emission Reduction)の認証基準に関する検討会』の議論におけるオフセット・クレジット(J-VER)制度に基づいて発行され国内における自主的な温室効果ガス排出削減・吸収プロジェクトから生じた排出削減・吸収量」を指します。「『オフセット・クレジット(J-VER) 』はカーボン・オフセット等に活用が可能で、市場における流通が可能となり、金銭的な価値を持ちます。そのため、「オフセット・クレジット(J-VER)」プロジェクトの実施者はこのクレジットを売却することにより、収益を上げることが可能です。そのため、これまで費用的な問題で温室効果ガスの削減を実施できなかった事業者や、管理が必要な森林を多く所有する地方自治体等にとっては、温室効果ガス削減プロジェクトの費用の全部や一部を、『オフセット・クレジット(J-VER) 』の売却資金によって賄うことが可能となります」と説明しています。

オフセット・クレジット(J-VER)制度とは

また環境省によりますと、オフセット・クレジット(J-VER)制度とは「オフセット・クレジット(J-VER)」プロジェクトを計画し、環境省による『カーボン・オフセットに用いられるVER(Verified Emission Reduction)の認証基準に関する検討会』の議論におけるオフセット・クレジット(J-VER)制度に基づいた妥当性確認・検証等を受けることによって、信頼性の高い「オフセット・クレジット(J-VER)」プロジェクトとして認証を受け、クレジットが発行される制度です。

オフセット・クレジット(J-VER)の創出は結果的に、国内におけるプロジェクトベースの自主的な排出削減・吸収の取組を促進することになり、国民運動として進めている「『低炭素社会形成』を促す原動力となります」と説明されています。

このような制度を整備することで、企業や市民がカーボン・オフセットに取組む場合に、この国内排出権取引制度によるクレジットを活用することができるようになります。実際にクレジットに対する第三者認証は「気候変動対策認証センター」が行いますが、同センターのホームページでは、温室効果ガスを削減するためのプロジェクトとして以下の例が紹介されています。

1. 森林管理プロジェクト

1) 間伐促進型プロジェクト

森林経営により二酸化炭素の吸収量を増やす目的で、間伐により森林を健全に育てる。秋田県や鳥取県で実施。

2) 持続可能な森林経営促進型プロジェクト

森林経営により二酸化炭素の吸収量を増やす目的で、森林施業計画や森林認証制度などを活用して持続可能な森林経営を促進する。近畿地方、中国地方、三重県などで実施。

3) 植林活動による二酸化炭素吸収量の増大

植林によって二酸化炭素吸収量の増加を目指す。

2. 国産木質バイオマスの使用促進

1) 化石燃料から未利用の木質バイオマスのボイラー燃料代替

化石燃料使用削減を目的に未利用の木質バイオマス(林地残材、間伐材、製材端材など)を活用し代替燃料とする。

2) 化石燃料から木質ペレットへのボイラー燃料代替

同上。

3) 木質ペレットストーブの利用

同上。

4) 薪ストーブにおける薪の利用

同上。

関連事項

<排出権取引市場規模(予測)>

環境省の試算を参考にすると2015年における日本の排出権関連ビジネスの市場規模は2兆6,000億円程度になると見込まれています。さらに、国際的な視点では国家や企業間の取引規模は将来的には20兆円規模の市場になると予測されています。

<カーボン・オフセット>

カーボン・オフセットとは、カーボン(炭素)、オフセット(相殺する)という意味で個人の日常生活や企業の事業活動などにおいて排出する温室効果ガス排出量のうち、削減努力によっても尚削減がむずかしい分を埋め合わせるための方法です。具体的には、他の場所で実行された排出削減・吸収量などの活動や事業に投資したり、その分を購入したりすることで相殺(オフセット)することを言います。実現の方法としては植林・森林保護・クリーンエネルギー事業などがあり、環境省より指針が出されています。

<カーボン・フットプリント>

カーボン・フットプリントとはカーボン(炭素)、フットプリント(足跡)という意味で、商品のライフサイクル全般(資源採掘、生産から使用、廃棄まで)を通して排出された温室効果ガスを二酸化炭素換算して表した数字で、個々の商品にこの数字を表示することにより、事業者の温暖化対策を消費者にアピールすると共に購入の目安を示すことになります。

まとめ

地球温暖化の真犯人は、前回も述べましたが今のところ「二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスである」とする国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)説が有力とされていますが、一方で温室効果ガスの排出権取引ビジネス関連の市場規模は日本においては2015年には2兆6,000億円、世界的に見ると将来20兆円にも上ると予想されるなど、地球温暖化問題に積極的に取組み、これをビジネスにしようとの動きも活発化してきている様子が見てとれます。

毎度繰り返していますが環境問題は、たしかに過去の公害問題の延長線上にはありますが、その対応は必要最小限に終わらせることなく、大きなビジネスチャンスと捉えて積極果敢に対応するのが今後の企業の経営には重要ではないかと思われます。

引用・参考文献

注意

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