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環境関連情報

新たな段階に入った温室効果ガス削減への道

COP21「パリ協定」を採択〜実質排出量「ゼロ」に向けて合意〜

情報発信日:2015-12-24

はじめに

2015年11月30日から12月11日までの予定で開催されていたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)及びCMP11(京都議定書第11回締約国会議)等は、締約国196ヶ国、出席者約4万人、報道関係者3,000人を集め、先進国と途上国の激しいやり取りの中、会期を2日延長しましたが、締約国全てが温室効果ガスの排出量削減に努力するという、パリ協定を採択して閉会しました。

図1 COP21ロゴマーク(出典:在日フランス大使館ホームページ)

 

世界気象機関によると、地球に大規模な気候変動をもたらすとして危惧されている温室効果ガスの二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などの濃度は2014年度に史上最高となり、同時に世界の平均気温も観測史上最も高くなったと報告しています。

この人間の様々な活動によって生じている温室効果ガスの増加を抑制しない限り、人間の存亡の危機が訪れるとされている中、1997年12月において開催されたCOP3で採択された京都議定書により、欧州及び日本など世界の55ヶ国が参加し2008年から2012年までの期間において、温室効果ガスの排出量削減に努力が払われてきました。

ところが、温室効果ガス削減交渉は、京都議定書の締約期間が終了した2012年以降については「世界第1位と第2位の排出国であり、全世界の温室効果ガスの半分弱を排出している中国と米国が参加しない削減には意味がなく、不公平」だとして、日本やカナダなどが離脱を表明するなど、一時は全く先行きが見えない状況に陥ってしまいました。

しかし、2011年12月に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17において、「温室効果ガス排出量の削減を目指し、京都議定書に参加しなかった排出量世界1位の中国及び2位の米国を含む主要排出国を対象に2020年から実施される新しい枠組みを作る」という、いわゆる「ダーバン・プラットフォーム」が合意されました。

パリ協定は、京都議定書のように法的拘束力や罰則を伴わない「努力目標」ではありますが、世界の各国が国家の威信をかけて設定した「目標」であり、目標に到達出来なければ信用を失うことになりますので、世界の人々の目による拘束力はあると期待されます。

今回は、このCOP21におけるパリ協定の内容を中心に、今後私達が国民として、企業人などとして、どのように行動していけばよいかを、種々の情報からまとめてみました。

COP21で採択された「パリ協定」の骨子

(1) 世界共通の目標として、産業革命以前からの気温上昇を2℃未満に抑える。さらに、1.5℃未満になるよう努力する。
(2) 出来るだけ早く世界の温室効果ガスの排出量を削減し、今世紀後半には排出量と吸収量を均衡させ実質排出量を「ゼロ」にする。
(3) 全ての国に対して、削減目標の作成、提出、達成を義務化し、5年ごとに見直しをさせ後退させない(共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受ける)。
(4) 5年ごとに世界の削減進捗状況を検証し、温暖化被害軽減の目標を提示する。
(5) JCM(二国間クレジット)を含む、市場メカニズムの活用を推進する。
(6) 森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化防止による排出量抑制の仕組み構築。
(7) 適応の長期目標の設定及び各国の適応計画プロセスと行動の実施。
(8) 先進国が引き続き途上国へ資金を提供する。途上国にも自主的な資金提供を奨励する。
(9) 温暖化の影響による被害の削減・軽減を図る。
(10) パリ協定の発効要件に国数及び排出量を用いる(各国が、パリ協定を自国に持ち帰り、正式に自国の政策・法律に盛り込むか否か)。

各国の温室効果ガス削減目標

図2 現状における主要各国の温室効果ガス排出量削減目標(出典:外務省)

 

2030年に向けた温室効果ガスの削減目標について、我国は2005年比▲25.4%です。1990年比▲50%のスイスや、▲40%のノルウェー等野心的な目標を示している国もありますが、他の主要国は我国と同等の▲25%前後を目標にしています。

 

我国の目標

2020年以降、温室効果ガス削減に向けて、我国の目標は「エネルギーミックス」との整合性、技術的制約、コストなどの課題を考慮し裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保によって、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4.200万トンCO2)としました。もう少し詳細を述べると、次のようになります。
・GDP当たり排出量を40%以上改善(中国は2030年にGDP当たり2005年比▲60〜65%、インドが2005年比▲33〜35%を表明)、一人当たりの排出量を約20%改善することで、世界的水準を維持するもの。
「国際的にも遜色の無い目標。」と自負。
・日本のGDP当たりのエネルギー消費量は現時点でも他のG7諸国の平均よりも約30%少なく、世界の最高水準にある。そこからさらに、2030年に向けて35%のエネルギー効率の改善を目指す(中国、インドとはベースが違う)。
・エネルギーミックスでは、総発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率を22〜24%(太陽光7倍、風力・地熱は4倍)、原子力を20〜22%と想定。
・IPCCが示した気温上昇2℃未満の目標達成のためには2050年までの長期的な温室効果ガス排出量削減に向けては「2050年世界平均で50%削減、先進国80%削減」の目標達成に整合する。

図3 我国のGDP当たり及び国民1人当たりの温室効果ガス排出量と日本を除くG7の値(出典:外務省)

 

これからの進むべき道

COP3における京都議定書においては、「経済成長に伴い増加する温室効果ガスの排出量を抑えるために、先進国が経済成長を犠牲にして痛みを分かち合う」というものでしたが、今回のパリ協定は、世界の各国がエネルギー転換による関連投資が相当拡大するビジネスチャンスと認識しているようです。2015年12月15日付け朝日新聞朝刊では、「風力発電は18年前の50倍、太陽光発電は原発の設備容量の半分にまで成長した。問題のコストも爆発的な普及に伴って急激に下がり、途上国でも火力発電のコストを下回るようになって来た」「低炭素経済への移行は、温暖化対策に後ろ向きと見られていた新興国でも進む。中国は世界一の自然エネルギー大国であり、インドも2022年までに風力発電を6,000万キロワット、太陽光発電を1億キロワットにする計画を掲げている」と報じられています。

多くの国で、経済成長と温室効果ガスの排出量は連動しなくなって来ているようで、昨年の世界経済は3%成長しましたが、温室効果ガスの排出量は横ばいと報道されています。

このような状況の中で、国家や企業の進むべき道は、その他の環境問題と同様に、ネガティブに捉えるのではなく、この転換期をいかにビジネスチャンスに代えて行くかを模索して行くことが生き残りの条件ではないでしょうか。

2030年には25%、2050年には80%もの温室効果ガスの排出量削減が我国に課せられた目標であり、これを達成するには、省エネやエネルギー、材料などあらゆる面で異次元での革新が必要になり、過去に類を見ないような、歴史上の大きな転換期を迎えることになると思われます。

まとめ

地球環境における三大懸念の一つといわれる温室効果ガスの排出量増加による気候変動問題は、近年世界各地で見られる豪雨による洪水、干ばつ、豪雪、大型のハリケーンや台風の発生などの異常気象の発生が顕著になって現れて来ています。

IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル Intergovernmental Panel on Climate Change)の報告書では、「この現象を放置すれば、2100年には世界の平均気温は4℃上昇し、海面は80cm高くなると推測されます。もしそうなれば、人類や生態系にとって、全面的で、非常に厳しく不可逆的な影響を増大することになります」と警告しています。

このような状況を脱するため、1997年12月開催のCOP3で採択された京都議定書に欧州及び日本など世界の55ヶ国が参加し、2008年から2012年までの期間において、温室効果ガスの排出量削減に努力して来ました。

ところが、温室効果ガス削減交渉は京都議定書の締約期間が終了した2012年以降の第2約定機関については、「世界の第1位と第2位の排出国であり、全世界の温室効果ガスの半分弱を排出している中国と米国が参加しない削減には意味がなく、不公平」だとして日本やカナダなどが離脱を表明するなど、一時は全く先行きが見えない状況に陥ってしまいました。

そのような中で、今回の「パリ協定」においては、法的拘束力や強制力は伴わないものの、世界の196ヶ国全てが温室効果ガスの排出量削減目標を持ち、この達成に努力するという画期的なものとなりました。

一部では、法的強制力のない目標について、どれだけ実効性があるのか疑問視する声もありますが、締約国全てが自ら目標を作成し、その達成結果のレビューを受ける義務を負い、そして目標は5年ごとに見直しを行うなど、国家としての目標ですので、法的拘束力がないといっても軽いものではないといえます。

また、京都議定書の時代には、「地球環境のためには先進国が経済成長を犠牲にしても痛みを分かち合う」という考え方でしたが、今や途上国や新興国においてさえ、エネルギー転換は決して経済成長にマイナスなものではなく、むしろ大きなビジネスチャンスと捉える動きが出て来ています。低炭素社会の構築過程における経済成長と温室効果ガスの排出量は、もはや連動しない領域に差しかかってきています。

COP21におけるパリ協定の採択を契機に、多くの企業も省エネ、低炭素化技術を利用したビジネスに益々力を入れ始めることと思われます。

一部には、今なお「地球の気温は温室効果ガスよりも太陽の活動により変動しており、今後は温暖化より寒冷化に向かう」という学説を唱える学者もいます。地球が今後温暖化に向かうか、寒冷化に向かうかは数十年先の地球だけが知っていることと思われますが、温室効果ガスの削減、低炭素社会構築は確実に大きなビジネスのテーマとして認識されている事は間違いないといえます。

引用・参考資料

注意

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