ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 2030年温室効果ガス排出量26%削減に向けて #3
情報発信日:2016-3-23
2015年1月24日付け本コラム「新たな段階に入った温室効果ガス削減への道 COP21「パリ協定」を採択〜実質排出量「ゼロ」に向けて合意〜」で述べましたが、2015年末にフランスのパリで開催されたCOP21において採択された「パリ協定」で、我国は温室効果ガスの排出量を2020年までに2005年比3.8%削減、2030年までには2005年比25.4%削減、さらには2050年には80%削減という、極めて高い目標を設定しました。
この目標を達成する道筋として、政府は【省エネ、再生可能エネルギー、二酸化炭素の吸収・固定】を主な手段として行うとしています。目標達成の手段としては省エネで約50%、再生可能エネルギーの利用で約40%弱、二酸化炭素の吸収・固定で約10%強を目指しているようです。省エネの現状と今後については、2016年1月26日付け本コラム「2030年温室効果ガス排出量26%削減に向けて #1 迫られる究極の省エネ」にて述べました。
また、世界における再生可能エネルギーの開発状況については2016年2月26日付け本コラム「2030年温室効果ガス排出量26%削減に向けて #2 再生可能エネルギーの現状と今後 #1(世界編))で述べましたが、今回は我国の再生可能エネルギーに対する現状の取組状況と今後の道筋などについて世界の国々と比較する形で述べてみたいと思います。
図1で見られるように、世界における電力は化石エネルギー由来が78.4%に対して、再生可能エネルギーが19%、残りの2.6%が原子力であることが示されています。
これに対して、2004〜2013年の我国の状況を見ると、電力消費がピークであった2007年では化石エネルギー(石炭+LNG+石油等)が65.8%、再生可能エネルギー(水力+地熱及び新エネルギー)は僅か8.6%、原子力エネルギーが25.6%の構成でした。しかし、東日本大震災による福島第1原子力発電所事故以来、原子力発電所のほぼ全てが稼働停止となったため、2013年度には、化石燃料による火力発電が実に88.4%、再生可能エネルギー10.7%という、世界的に見ても異常な電源構成に陥っています(図2)。
化石エネルギー | 再生可能エネルギー | 原子力エネルギー | |
---|---|---|---|
世界(2012年) | 78.4% | 19.0% | 2.6% |
日本(2007年) | 65.8% | 8.6% | 25.6% |
日本(2012年) | 88.4% | 10.7% | 1.7% |
以上のことからわかるように、東日本大震災による福島第1原子力発電所事故に伴う全国の原子力発電所のほぼ全てが稼働を停止したという異常事態を考慮しても、我国の再生可能エネルギーへの転換は世界の平均の半分程度と推定できます。
しかし、2050年には温室効果ガス排出量80%削減という目標を持ち、実質的に化石燃料はほぼ使用ができなくなる状況となります。これに対する政府(経済産業省/資源エネルギー庁)の示す方向性を見て行きたいと思います。
環境省の資料によりますと、世界における再生可能エネルギーによる一次エネルギー供給の供給実績は、図3に示すとおり、バイオ燃料・廃棄物による割合が高くなっています。これは、途上国における薪炭などの非商業用バイオマスの利用が大きな割合を占めているとしています。
これらバイオマス・廃棄物を除くと、太陽光発電と風力発電が増加傾向にあることがわかります。一方、地熱発電は、太陽光発電や風力発電による供給量が少なかった2000年代前半より比較的大きな割合を占めています。
このような状況において、我国の再生可能エネルギーによる一次エネルギーの供給実績は、図5で示すとおり、2001年から2010年までの間で、横ばいであることがわかります。
2001年から2010年まで、欧州の再生エネルギー供給量推移をドイツ、英国、スペイン、イタリアに見てみると、我国とは対照的に軒並み大きな伸びを見せています(図6)。
世界における再生可能エネルギーの設備容量及び発電電力量は2000〜2010年の間に急激に増加していますが、総発電量に占める割合は約20%で横ばいであり、必要電力量の増加分を再生エネルギーで補っているように見えます(図7)。OECD加盟国では世界全体とほぼ同じ傾向を示しています(図8)。
図9より我国の再生可能エネルギー発電実績を見ると、太陽光発電、風力発電の発電量は2000〜2010年の10年間でそれぞれ約10倍、約40倍となり、設備容量とともに伸びを示しています。
発電容量の成長率は風力発電で低下の傾向にあり、成長率が鈍化しています。一方、太陽光発電は2002年の40%から2008年に掛けて20%まで低下しましたが、2010年に約40%に回復しています。
しかし、総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は約10%で2000〜2010年までの10年間において横ばい状態が続いています。
環境省の資料から2010〜2035年までの世界、OECD加盟国、日本における再生可能エネルギーの導入見通しを設備容量、発電電力量、総発電量に対する再生可能エネルギーの割合により示します。
図10〜図12より、世界、OECD加盟国、日本ともに、2030〜2035年までに再生可能エネルギーの総発電量に占める割合を35%まで高める計画であることがわかります。
日本の2012年度時点での再生可能エネルギー発電の見通し(エネルギー・環境会議による国家戦略室2012b)では、太陽光発電と風力発電が設備容量、発電量共に拡大することが見通されており、再生可能エネルギー電源の拡大に大きく寄与するとしています。太陽光発電の設備容量は2010年の3,620MWから2030年には63,280MWと17.5倍に増加が見込まれ、風力発電の設備容量は陸上風力発電と洋上風力発電の合計で2010年の2,440MWから2030年に34,900MWと14.3倍の増加を見込んでいます。この結果により、2030年には総発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率を現状の10%から31%と3倍以上に増加させる見通しを示しています。
(1) 世界及び日本における再生可能エネルギー導入の現状は、下表のとおりで世界における総エネルギーに占める再生可能エネルギー比率は19%ですが、我国では2012年時点で10.7%と約半分です。
化石エネルギー | 再生可能エネルギー | 原子力エネルギー | |
---|---|---|---|
世界(2012年) | 78.4% | 19.0% | 2.6% |
日本(2007年) | 65.8% | 8.6% | 25.6% |
日本(2012年) | 88.4% | 10.7% | 1.7% |
(2) 世界及び日本の2035年に向けた総エネルギーに占める再生可能エネルギー比率は30〜35%が見通されています。
(3) 日本、ドイツ、英国、EUにおける2030年に向けた再生可能エネルギー発電導入見通しを比較すると,
次の表のようになります。
国 | 2011年(実績) | 2015年(推計) | 2020年(計画) | 2030年(計画) | 出典 |
---|---|---|---|---|---|
日本 | 10% | - | 18% | 31% | 国家戦略室2012 |
ドイツ | 20.35% | - | 35% | 50% | ドイツ環境省2010 |
英国 | 9.2% | 16% | 31% | - | 英国政府2010 |
EU | 20.44% | - | 39.2〜39.8% | 65〜67% | EREC2010 |
日本全体で温室効果ガスの大幅削減に取り組むための最新の「地球温暖化対策計画」の政府原案が2016年3月4日に経済産業省と環境省の専門家による合同会議でまとめられたと発表されました。
原案には、国連に提出した「2030年に2013年度比26%削減」を達成するための対策、長期目標である「2050年80%削減」の目標も明記されました。
原案は近く、政府の「地球温暖化対策推進本部」の了承及び意見公募を経て、本年5月に開催される伊勢志摩サミットまでに、閣議決定される予定です。
この地球温暖化対策計画 (案)は経済産業省及び環境省のHPより閲覧できますが、閣議決定後に概要を本コラムでも取り上げたいと思います。次回は、二酸化炭素吸収・固定に関する現状と将来について解説する予定です。