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環境関連情報

2030年温室効果ガス排出量26%削減に向けて #4

CCS(二酸化炭素の固定化・貯留技術)の現状と今後

情報発信日:2016-4-22

はじめに

本コラムの「2030年温室効果ガス排出量26%削減に向けて#1〜#3」(2016年1月26日2月26日3月23日付)、及び、新たな段階に入った温室効果ガス削減への道 COP21「パリ協定」を採択〜実質排出量「ゼロ」に向けて合意〜(2015年12月24日)において述べてきましたが、2015年末にフランスのパリで開催された気象変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)において採択された温室効果ガス削減に関する「パリ協定」に関して、我国は温室効果ガスの排出量を2020年までに2005年比3.8%削減、2030年までには2005年比25.4%削減、さらには2050年には80%削減という、極めて高い目標を設定しました。

政府は、これを達成するための地球温暖化対策計画(案)を現在検討中ですが、具体的には(1)異次元の省エネの実行、(2)化石エネルギーから再生可能エネルギーへの大幅な転換、(3)二酸化炭素の回収・貯留(CCS)の利用などによって達成すると計画しています。

今回は、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)の現状と課題などについて述べてみたいと思います。

 

二酸化炭素の回収・貯留(CCS)とは

経済産業省が主催する二酸化炭素回収・貯留(CCS)研究会が2007年10月3日に公表した「地球温暖化対策としてのCCSの推進について」によると、「二酸化炭素回収・貯留(CCS: Carbon Dioxide Capture and Storage)とは、大規模なCO2発生源から排出されるガス中のCO2を、分離・回収し、それを地中もしくは海底の深くに貯留・隔離することにより、大気中にCO2が放出されるのを抑制する技術であり、省エネルギー、再生可能エネルギー等CO2の排出が極めて低いエネルギーの導入、低炭素含有燃料への転換などによる温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gas)の排出量削減及び温暖化に対する適応とともに、地球温暖化対策に役立つ技術である」と定義しています。

また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のCCSに関する特別報告書(2005年)によれば、「CCSには、地中貯留だけでも、現在の世界全体の排出量の80年分に相当する、約2兆トンCO2もの貯留ポテンシャルが見込まれており、実用化されれば、地球温暖化対策の重要な選択肢の一つとなり得る」と述べられています。

さらに、2007年5月に公表されたIPCC第4次評価報告書第3WG報告書(気象変動の緩和策)において、「CCSは2030年までに気候変動気候変動の緩和に重要な貢献をする可能性のある新しい技術として位置づけられている」と述べられ、2031年以降のCO2排出量削減においてもCCSは極めて重要な技術であると位置付けられています。

 

二酸化炭素の回収・貯留(CCS)における個別技術

二酸化炭素の回収・貯留(CCS)を実際に行うためには二酸化炭素の「回収・分離・圧縮」「輸送」「貯留」の3つの個別技術開発が必要となりますが、それぞれの技術について以下に述べます。

(1) 二酸化炭素の回収・分離・圧縮
二酸化炭素を効率良く回収するためには、工場などの大規模設備や発電所の排気設備から高濃度のCO2を回収することです。排ガスに含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物などからCO2を分離する方法は、多くの産業において通常のプロセスとして実施されています。例えば、天然ガスを生産する場合にはCO2を除去するプロセスがあります。またアンモニアや水素を生産する工場プラントにおいてもCO2除去が製造プロセスに組み込まれていますので、ある意味既存の技術ともいえます。

製鉄所やセメント工場、発電所などでは現在は大規模なCO2回収プロセスの実施・実験は行われていませんが、技術的には実施可能と思われます。

例えば、セメントの製造プラントからCO2を回収する場合には燃焼後に回収、製鉄プロセスでは一種の酸素燃焼によるCO2回収と、ケースバイケースでいくつかの回収法が適用可能です。

CO2の最大の排出源は化石燃料の燃焼であり、特に火力発電所において大量のCO2が排出されています。そして、CO2を排気ガス中の他のガスと分離する方法としては、液体の溶剤に対する溶解度の違いを利用する方法、固体の吸着剤を利用する方法、気体分離膜を利用する方法などがあります。

(2) 二酸化炭素の輸送
化石燃料が燃焼した後の排ガスから分離されたCO2は、輸送と貯留をしやすくするために圧縮されて適切な貯留サイトへと輸送されます。 今日、CO2は産業用に使用されるほか、石油やガス田からの回収増進のためにもCO2が使用されており、CO2は既にパイプラインや船舶、トラックなどを使って輸送されています。

CCSを広く普及させるためには、このような小規模輸送とは異なり、巨大な量の高濃度高圧CO2を安全かつ安価に輸送する技術の開発が必要になります。

(3) 二酸化炭素の貯留
CCSの最終プロセスは地中や海底深くにCO2を圧入して貯留する方法です。CO2を貯留する地中や海底は1,000m以上の深さになるとが見込まれます。これは、この位の深度における温度と圧力がCO2を高濃度の液体の状態に保つためで、貯留された高濃度の液化CO2は地底の多孔質層にゆっくり入り込み安全に貯留されます。

問題はコストですが、安価で安全な貯留サイトとして枯渇した油田やガス田、真水や塩水を含む岩盤層などが候補に上がっています。これらの貯留サイトには水が存在するため、CO2が地上に漏れ出すのを防ぐ効果があります。これらの貯留サイト候補は石油や天然ガスなどを何万年も閉じ込めて来た場所であり、注意深くサイトを選択すればCO2も安全に長期間貯留できると考えられています。もちろん、地上に漏えいしてきていないかの継続的な監視が必要不可欠なことはいうまでもありません。

既に、アメリカ、カナダ、中国、オーストラリアなど大きな国土を有する国々はCO2貯留サイトの探査に着手しているといわれています。日本においても海岸線付近の帯水層エリアマップの作製及び貯留ポテンシャルの調査などが始まっています。

 

 

CCSの普及に関する課題

温室効果ガス排出量の削減を進める手段として、CCSは基本的に他の省エネルギーの推進や再生可能エネルギー転換と異なるタイプの技術といえます。即ち、単独では経済的なインセンティブが働かない温暖化対策に特化した方策(温暖化特化方策)であり、CCSの実用化に当たっては、解決すべき課題が多いともいえます。

最大のネックはコストであり、技術進歩によるコストダウンはいうまでもありませんが、法制度の整備、環境安全への対応、社会的な受容性の獲得といった課題の解決が必要になります。

こうした課題の解決に当たっては、国際的な議論の動向を踏まえて、十分に科学的な裏付けのある議論を行う事が重要であるといえます。

また、CCSに関する多くの技術力を有する我国の企業にとっては海外市場も含めて、将来大きなビジネスチャンスとなる可能性があります。反面、CO2排出量の削減への対応は企業にとっては「コスト」であり、リスクを伴うものともいえますが、対応次第では逆に競争力を高めるチャンスともいえます。

 

まとめ

(1) 二酸化炭素回収・貯留(CCS: Carbon Dioxide Capture and Storage)は、大規模発生源の排ガス中のCO2を、分離・回収し、それを地中もしくは海洋に長期間にわたり貯留・隔離することにより、大気中へのCO2放出を抑制し、地球温暖化を防止する技術である。

(2) CCSは、CO2の回収・分離・圧縮、輸送及び貯留という3つの機能から構成される。

(3) CO2の分離・回収には、化学吸収法、物理吸収法、膜分離、物理吸着、及び深冷分離がある。

(4) 貯留には地中貯留と海洋隔離がある。

・「地中貯留」には、帯水層貯留、石油・ガス増進回収(石油増進回収法EOR: Enhanced oil recoveryと排気再循環EGR: Exhaust Gas Recirculation)、枯渇油・ガス層貯留、及び炭層固定がある。
・海洋隔離の方式としては、溶解希釈(固定式)、溶解希釈(移動式)、及び深海底貯留隔離がある。
・海洋隔離方式は、国際的に実施するための環境がまだ整っていないが、長期的な観点から重要なオプションであり、今後とも研究開発を進めていくことが必要である。

(5) CCSは、省エネの推進や再生可能エネルギーへの転換などCO2排出量削減のための他の手段と異なり、企業にとってはコスト負担だけの対策となるため、普及に当たっては経済的なインセンティブが働かない。このため、究極のコストダウンが求められる。また、安全性に対する科学的な裏付けが重要。

(6) 一方で、IPCCの報告書においてCCSは世界の80年分のCO2排出抑制のポテンシャルがあると述べられており、CCS関連の技術を有する企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる可能性がある。

 

引用・参考文献

注意

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