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環境関連情報

2030年温室効果ガス排出量26%削減に向けて #5

民間企業はどう対策するべきか

情報発信日:2016-5-20

はじめに

2015年12月に「パリ協定」が採択されました。このパリ協定は、各国が議会の承認を経て「批准」することによって発効しますので、例えばアメリカの次期大統領がトランプ氏になり「パリ協定には国益を損なうから反対」となり、京都議定書のように「アメリカ離脱」、「じゃあ、中国も止めた」と排出国1位と2位の国が離脱してしまった場合には、パリ協定が無意味なものになる可能性は、まだまだ残っています。しかし、今回のパリ協定が採択されるに至った背後には、国家を超えた民間企業、自治体、NGOなどの非国家的な組織の大きな後押しがあったといわれていますので、パリ協定が後戻りする可能性は少ないといわれています。

したがって、このままアメリカも中国もパリ協定に批准すれば、世界は国家を超えて脱炭素社会の構築に向けて大きく舵を切ることになります。

そうした場合に、実際の温室効果ガス排出量削減を担うのは政府ではなく、当然のことながら民間企業ということになります。今から14年後の2030年には26%の削減、34年後の2050年には80%の削減を行う必要があり、これから設備投資を行う場合には、この点をよく考慮して行わないと、償却半ばで設備が稼働できなくなったり、膨大な炭素税を支払うことになったりする可能性が高くなるといえます。また、既存の設備についても改修の必要性が出て来るかもしれません。

では、実際の企業活動においてパリ協定とどう向き合って行けばよいかを考えて行きたいと思います。

パリ協定の特徴

パリ協定はポスト京都議定書といわれ、気候変動問題に対する2020年以降の国際的な枠組みを定めたものです。

ここでは、パリ議定書の特徴と、京都議定書との違いを整理してみたいと思います。

<京都議定書との違い>

(1)温室効果ガス排出量削減目標値の設定

京都議定書では、温室効果ガス排出削減目標量は地球温暖化・気象変動を緩和するために必要と計算される削減量を各国に割り当てるトップダウン的に設定されましたが、パリ協定における短期目標値は、各国が自主的に積み上げるボトムアップ的に設定されました。

このため、各国の削減目標値を積算しても、現状では理想的な削減量には到達できないという短所はあるものの、世界各国が参加しやすいという大きなメリットがあります。

(2)目標不達成の場合の罰則及び法的拘束力

京都議定書の場合には目標が期限内に達成出来なかった場合の罰則や法的な拘束力がありましたが、パリ協定では、目標が達成出来なかった場合でも罰則及び法的拘束力はなく、目標値はあくまでも「努力目標」として位置付けられます。

したがって、目標達成に対して適当に取り組んでも、真剣に取り組んでも、ある意味構わないともいえますが、一流国としては国の信用や威信を担保にするともいえます。

このため、どれだけの国が目標達成できるのかという問題点はありますが、逆に世界の多くの国が参加しやすいというメリットはあります。

<パリ協定の特徴>

(3)途上国を含めた世界のほとんど全てが自主目標を設定して参加

上記(1)(2)の理由により、途上国を含めた世界のほぼ全ての国が参加しやすくなったことにより、自主的ではありますが参加国全てが温室効果ガス排出量の削減目標を掲げることができました。

目標を達成出来なかった場合にも罰則など法的な拘束力がないこと、温室効果ガス排出量削減量目標が自主的な目標であることが一番の特徴といえます。

(4)国別の短期的な目標値設定に加えた長期目標の設定

国別の短期的な目標設定に加えて、21世紀後半まで(2050年まで)に人為起源の温室効果ガスの排出量を、森林や海洋が吸収する量以下(実質的な増加量をゼロ)にするという長期目標を共通認識としました。

(5)5年ごとの目標値及び取組のレビュー義務

各国は5年ごとに削減目標を見直し(目標値の後退は認めない)、取組状況や目標達成に関するレビューを行うことが求められます。

以上のように、パリ協定は温室効果ガスの排出量削減目標値の設定方法が自主的であり、かつ目標が未達成でも罰則や法的な拘束力がないため、一見すると極めてゆるく、「各国がどれだけ真剣に目標達成に努力し、目標達成できるのか」という疑問は大きいと思われますが、冒頭にも述べたとおり、国家を超えたところで民間企業や非政府組織などが政府を後押しする形でこの協定が採択され、自ら掲げた目標値であるため、罰則や法的拘束力がない一方で、「国家の信用」を担保とした協定であることがわかると思います。 目標をおろそかにすれば、自ずと国際的な信用を失いかねない事態となりますので、責任ある一流国であればなおさらのこととなります。

パリ協定と民間企業におけるリスクとチャンス

パリ協定の発効要件は「世界の総排出量の55%以上の排出量を占める55ヶ国以上の締約国がこの協定を締結(批准)した日から30日目に効力を生じる」とされていますので、排出量世界第1位の中国と、第2位のアメリカが批准するのか否か、予断を許さない状況にはありますが、政府より民間の後押しで進んで来た現状からすると、いずれ発効することになると思われます。

この場合、短期的には民間企業が受ける影響は少ないとは予想されますが、設備償却年数が30年、40年と見込まれる設備投資を行う場合には、「21世紀後半には、二酸化炭素を無料で排出することができなくなる可能性が極めて高い」という認識を持った上で行う必要がありますし、今後は温室効果ガス、特に二酸化炭素の排出に関するコストは企業経営を行う上で、益々重要性を増して来ると思われます。

一方では、我国においては原子力発電所の停止や廃止を見通してか、石炭による火力発電所の建設計画が複数進んでおり、これらを見込むと2030年における我が国目標値をこれだけで未達成にしてしまうことが危惧されているともいわれており、政府による早期のコントロールが必要と思われます。

一般の民間企業においては「もしかすると、21世紀後半には二酸化炭素などの温室効果ガスの排出は無料では一切行えなくなる」ということも予期し、備えなくてはならないと思われます。即ち、排出された温室効果ガスは吸収・貯留施設に運ばれて、下水や産業廃棄物と同ように処理することが求められるため、有料となることは十分考えられると思われます。

反面、パリ協定の発効をチャンスと見込んでいる企業も多数あります。特に、我国では高度な低炭素化技術や省エネ技術を多数有していることから、これらの技術や設備を海外に輸出することを狙っているようです。

COP21にパリ協定採択の成功要因

京都議定書の締約期間終了後、温室効果ガス排出量増加に伴う気象変動の緩和に対して、国際社会は一時空回りをしていた時期があり、「このままでは、地球はどうなってしまうのだろう」と多くの人達が危惧して来ました。

それが、COP21においては途上国を含めた世界のほとんどの国々が個々に削減目標を持って一致して気象変動を緩和しようとまとまった背景は何があったのでしょうか。

京都議定書と異なり、「目標値が自主的に設定出来ることや罰則及び法的拘束力がない」というだけではなく、世界的な潮流の変化が起こっているといわれており、公益財団法人地球環境戦略研究機関による2016年1月13日付けプレゼン資料「COP21の成果:パリ協定と概要と今後の課題」によると、以下の背景があるとしています。
・温暖化に関する科学的知見の進展(温室効果ガスと気象変動の因果関係)
・異常な気象現象の頻発による人々の危機感の高まり
・欧米を中心に、温暖化を「エコ」の問題ではなく、社会不安につながる問題として捉え始める
・欧米を中心としたビジネス界や自治体の意欲的な行動の大きなうねり
・米国、中国の前向きな姿勢
・EU、小島嶼国(しょうとうしょこく:低地の島国のこと)、後発途上国に加え、今回は米国も含め、意欲的取組みを含む合意の成立を求める大連合を形成した
・議長国フランスの外交力と采配

今後の課題と展開

一般企業にとっては「20xx年までに温室効果ガスの排出量を△△%削減」「世界の気温上昇を2℃/1.5℃」といわれても、自分達はどうすればよいのか、未だ雲を掴むような話でしかないと思われます。

まずは、政府が累積排出量をいかに減らすのかを示すことが重要ですが、これを具体的に進める大きな方向性は、経済産業省と環境省の専門家による合同会議でまとめられ2016年3月4日公表された「地球温暖化対策計画(案)」に示されているようです。この原案には国連に提出した「2030年に2013年度比26%削減」を達成するための対策、長期目標である「2050年80%削減」の目標も明記されました。

この原案は政府の「地球温暖化対策推進本部」の了承及び意見公募を経て、本年5月に開催される伊勢志摩サミットまでに閣議決定される予定とのことですが、閣議決定を待って、本コラムでも概要をお知らせしたいと思います。

まとめ

(1)2015年パリで開催されたCOP21においてパリ協定が採択された。この発効のためには「世界の総排出量の55%以上の排出量を占める55ヶ国以上の締約国がこの協定を締結(批准)した日から30日目に効力を生じる」と定められており、世界の温室効果ガス排出量第1位の中国と第2位のアメリカが批准に漕ぎ着けられるのか予断を許さない課題もあるが、京都議定書締結時とは大きな潮流の変化があり、途上国も含めて国境や政府を越えた流れの変化がある。

(2)パリ協定が発効する前提で、温室効果ガス排出量削減を実際に担う民間企業において、短期的及び長期的にどのようなリスクとチャンスがあるのか探ってみたが、短期的には大きな影響は受けないと予想される。しかし、長期的な設備投資に対しては、「2050年には実質二酸化炭素などの温室効果ガスは無料での排出は一切できない」と仮定して考えるべき。

(3)温室効果ガスの排出量削減は、環境問題としてより社会不安を解消する課題と捉えられ、多くの企業は低炭素化技術をビジネスチャンスとして捉えている。

(4)民間企業は「何をしなくてはならないのか」と考えて待つのではなく、むしろ「何が出来るか」と積極的に考えるべきであり、ステークホルダーや投資機関に対しては地球温暖化防止に対して、どのように取り組んでいるのか/いくのかの説明を求められるようになるといえる。

引用・参考資料

注意

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