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環境関連情報

モントリオール議定書改定案採択

〜先進国は代替フロンを85%削減で合意〜

情報発信日:2016-12-22

はじめに

2016年10月10日〜15日にルワンダの首都キガリにおいて「第28回モントリオール議定書締約国会議」が開催されました。各新聞などの報道によると、エアコンや冷蔵庫用の冷媒として使用されている代替フロンの生産量を段階的に大幅削減する議定書改正案が採択されました。概要は「代替フロンの生産量を、先進国においては2036年に生産量を85%、中国は2045年に80%、インドや産油国は2047年に85%と大幅な削減を行う」というものです。

モントリオール議定書は、地球のオゾン層破壊防止を目的として、フロンの生産や排出を規制するための条約です。今回「オゾン層破壊係数の低い代替フロンの大幅削減」を決めましたが、なぜオゾン層破壊係数の低い代替フロンをも短期的かつ大幅な削減を採択したのか、これを機に「モントリオール議定書」のおさらい及び、代替フロンの大幅削減を決めた背景などについて述べたいと思います。

フロンによるオゾン層破壊

気象庁のHPによると、「1970年代半ば、人工的に作り出された物質であるクロロフルオロカーボン類(CFC 類:フロンとも呼ばれます)がオゾン層を破壊する可能性が指摘されました。フロンの多くは、かつてはエアコン、冷蔵庫、スプレーなどに使われ、大気中に大量に放出されていました。フロンは、地上付近では分解しにくい性質をもっているため、大気の流れによって成層圏にまで達します。高度40km付近の成層圏まで運ばれると、フロンは強い太陽紫外線を受けて分解し、塩素を発生します。この塩素が触媒として働きオゾンを次々に壊してゆきます」と記されています。

オゾン層は、地球に掛けられたレースのカーテンのような役割をしており、太陽から降り注ぐ紫外線の多くをカットする役割を果たしています。強い紫外線は生物にとって有害であり、オゾン層がなくなると皮膚がん、白内障・失明、免疫低下による細菌やウイルス性の病気にかかりやすくなるといわれています。

オゾン層破壊防止のために

(1)オゾン層保護のためのウィーン条約(国立環境研究所HPより)

1985年3月22日、オゾン層保護を目的とした国際協力ための基本的な枠組みを設定する「オゾン層保護のためのウィーン条約」が採択されました。締約国数は172カ国とEC(欧州共同体)です。

その概要は、「オゾン層の変化により生ずる悪影響から人の健康および環境を保護するために適当な措置をとること」「研究および組織的観測などに協力すること」「法律、科学、技術などに関する情報を交換する」などです。

(2)オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(国立環境研究所HPより)

1987年9月16日、上記のウィーン条約の下、オゾン層を破壊するおそれのある物質を特定し、その生産と消費と貿易を規制して、人の健康および環境を保護する 「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が採択されました。締約国は171カ国とECです。

その概要は、「オゾン層破壊物質の規制スケジュール」「非締約国との貿易規制」「最新の科学、環境、技術および経済に関する情報に基づく規制措置の評価および再検討」などです。条約および議定書の事務局は、ナイロビの国連環境計画(UNEP)に置かれています。

モントリオール議定書第28回締約国会合の結果

環境省によると、2016年10月10日から14日にかけて、ルワンダの首都キガリで行われたモントリオール議定書第28回締約国会合において「ハイドロフルオロカーボン(HFC)の生産及び消費量の段階的削減義務等を定める本議定書の改正(キガリ改正)が採択された。改正議定書は,20か国以上の締結を条件に2019年1月1日以降に発効する。なお、HFCはオゾン層破壊物質ではないが、その代替として開発・使用されており、かつ温室効果が高いことから、本改正議定書の対象とされたものである」と解説しており、オゾン層破壊係数の高いフロンの代替として開発され使用されて来た代替フロンのHFCはオゾン破壊係数が低いものの、温室効果ガスとしては二酸化炭素の数千倍も強力な温室効果ガスでもあることがわかっており、その使用量も年10%と急増していることから、パリ協定の発効との連動が必要との認識で一致し、今回の大幅削減が採択されました。

表1 キガリ改正議定書におけるHFC生産・消費量の段階的削減スケジュール(出典:環境省)

注1) 途上国第1グループ:開発途上国であて、第2グループに属さない国
注2) 途上国第2グループ:インド、パキスタン、イラン、イラク、湾岸諸国等の産油国他
注3) 先進国に属するベラルーシ、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、ウズベキスタンは、規制措置に差異を設ける(基準値について、HCFCの算入量を基準値の25%とし、削減スケジュールについては、第1段階は2020年▲5%、第2段階は2025年に▲35%削減する)
注4) 途上国第2グループについて、凍結年(2028年)の4〜5年前に技術評価を行い、凍結年を2年間猶予する。
注5) 全ての締約国について、2022年、及びその後5年ごとに技術評価を実施する。

事務局より上記の協定が遵守されることにより、「今世紀末までのHFC由来の地球全体の平均気温上昇は摂氏約0.5度分となる推計であったところ、本改正議定書が着実に実施されることにより、この上昇が0.06度分まで抑制可能となる。」との推計が紹介されています。

図1 これまでのフロン対策の経緯(出典:環境省・経済産業省)

日本への影響と課題

図2 我国の冷凍空調機器における冷媒の市中ストック (出典:環境省・経済産業省)

現状2000年代以降、冷凍空調機器に用いられる冷媒はオゾン層破壊係数の大きい特定フロンからオゾン破壊係数の低い代替フロンへの転換が進んでいますが、冷媒の市中ストックは増加傾向にあります。

しかし、2015年4月1日に「フロン回収・破壊法」が改正され、「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」として施行され、企業などでは生産規制を先取りした取り組みが既に始まっているため、大きな混乱や影響は少ないと推定されています。

図3 フロン類回収量等の推移 (出典:環境省・経済産業省)

問題は、「フロン回収・破壊法」(2001年施行)に基づき、業務用冷凍空調器に使用されるフロン類の回収を義務付けており、フロン類の回収量は年々増加していますが、法施行以来、回収率は3割程度で低迷していることです。

まとめ

2016年10月10日〜15日にルワンダの首都キガリで「第28回モントリオール議定書締約国会議」が開催されました。

各新聞などの報道及び環境省や外務省の発表によると、一部の国を除く先進国は代替フロンの生産量を2036年に▲85%、中国などの第1グループに指定される途上国は2045年に▲80%、インドや産油国などの第2グループに指定される途上国は2047年に▲85%と、急速かつ大幅な削減を採択しました。

特定フロン類に比較し、オゾン層破壊係数の低い代替フロンに対してこのような急速かつ大幅な削減を求めた背景は、代替フロンが二酸化炭素の数千倍の温室効果を有するためパリ協定と連動して温室効果ガス排出量削減を目的とするものです。未対策の場合は、今世紀末までに代替フロンによる平均気温上昇は0.5℃と推定されるところ、この協定が実施された場合には、0.06℃の上昇に抑えられると試算されます。

我国に対する影響は、2015年4月1日施行の改正フロン法により先行して対策を講じているため、影響は少ないと推定されていますが、改正前のフロン法において回収率が3割程度で低迷しており、今後は市場に出ているフロンをいかに確実かつ効率良く回収するかが課題として残されています。

引用・参考資料

注意

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