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環境関連情報

一向に進まない世界の環境汚染対策 #1

〜世界の大気汚染の現状〜

情報発信日:2017-01-20

はじめに

「環境汚染」と一言でいっても、過去の公害問題を振り返ると、化学物質によるもの、放射性物質によるもの、廃棄物(ごみ)によるもの、微生物やウイルスによるもの等多くの種類があります。特に、有害化学物質や重金属などによる水の汚染は、体重の60〜80%が水で構成される我々人間にとっても、その他の陸上生物や特に水中で暮らす水生生物にとっても、その汚染された水を体内に取り入れることによって健康被害がもたらされる事は容易に想像が出来ます。

また、空気中の酸素を呼吸によって体内に取り入れる我々人間を初めとする生物にとって、大気汚染は呼吸器系の疾患や癌などの健康被害と直結する問題であり、オゾン層を破壊するといわれるフロンや地球温暖化を促進するといわれる二酸化炭素による汚染問題も含め、この大気汚染は水の汚染と並んで国境を越えて進む重大な環境汚染といえます。

日本経済新聞は2016年12月22日付けで、2016年12月21日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の記事を引用し、「中国で先週後半から大気汚染によるスモッグが深刻化し20日、北東部の24都市に『赤色警報』が発令された。学校が休校となり、交通規制が敷かれ、市民は屋外に出ないよう勧告された。大気汚染は中国で今年最も深刻なもので、4億6000万人に影響を与えている。環境保護団体グリーンピースの試算によると、これらの市民は世界保健機関(WHO)が1日の目安とする基準の6倍の濃度のスモッグにさらされている。スモッグは多くの地域で3日以上続いている(以下略)」などと伝えています。

2013年2月25日付けの本コラム「中国で深刻な大気汚染が広がる」でも述べていますが、PM2.5と呼ばれる微粒子状物質による中国における大気汚染問題は、2008年の北京オリンピック以前の2005年頃から問題となっていますが、約10年を経過した現在も未だに顕著な改善がなされていない様子が見て取れます。

このPM2.5による大気汚染は、中国での発生が日本にも影響が及ぶ恐れがあるためマスコミで多く報じられますが、実際には中国以外にもインドや欧州でもこのPM2.5などによる大気汚染問題は、なかなか解決の出来ない課題になっています。今回は、このPM2.5に代表される「進まない世界の大気汚染対策」について、述べて見たいと思います。

注)PM2.5とは(出典:環境省)

・大気中に浮遊している2.5μm(1μmは1mmの千分の1)以下の小さな粒子のことで、従来から環境基準を定めて対策を進めてきた浮遊粒子状物質(SPM:10μm以下の粒子)よりも小さな粒子です。

・PM2.5は非常に小さいため(髪の毛の太さの1/30程度)、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系への影響に加え、循環器系への影響が心配されています。

・粒子状物質には、物の燃焼などによって直接排出されるものと、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状大気汚染物質が、主として環境大気中での化学反応により粒子化したものとがあります。発生源としては、ボイラー、焼却炉などのばい煙を発生する施設、コークス炉、鉱物の堆積場等の粉じんを発生する施設、自動車、船舶、航空機等、人為起源のもの、さらには、土壌、海洋、火山等の自然起源のものもあります。

世界の大気汚染の状況

<中国>

中国では、経済の開放政策が進んだ結果、環境対策が急速な経済の発展に追い付かず、石炭火力発電所や製鉄所、化学工場及び一般家庭での暖房用石炭など大量の化石燃料が消費され、また排ガス規制が追い付かない自動車の急増などにより、2005年頃から冬季に粒径2.5μm以下の微粒子物質であるPM2.5の濃度がWHOの定める空気質ガイドラインや、AQI:大気汚染指数(Air Quality Index、米国の大気汚染防止法による規制を実施するために、EPA [Environmental Protection Agency: アメリカ合衆国環境保護庁] が大気汚染の指標となる5物質[地表オゾン濃度、微粒子濃度、一酸化炭素濃度、二酸化硫黄濃度、二酸化窒素濃度]から計算される大気汚染の度合いを測るための指標)を大幅に超えた危険警報が何度も発令され、その度に工場の操業中断、自動車の走行台数規制などが行われてはいます。

このため、中国政府は、2011年から大気汚染防止のため抜本的な対策を取り始めた事により、2011年をピークに年々少しずつ改善が見られては来ているようです。「中国は2013年に大気汚染物質の削減に向けた行動計画を策定し、その結果、肺の奥にまで入り込む恐れのある微小粒子状物質PM2.5の濃度は2010年から2015年までの間に17%低下した」と報じられていますが、この冬に早くもWHOの定める基準の6倍のスモッグ濃度が3日間連続し赤色警報が発令されたと多くのメディアが報じています。

このため大都市部ではほぼ全ての人々がマスクを着用して外出し、家やオフィスには空気清浄機が備え付けられるという異様な状況が続いており、マスク無しで外出が出来るようになるまでには、まだまだ時間が掛かりそうに思われます。

写真 The 25 Most Polluted Places On Earth (List25 LLC)
(中国からは、臨汾が3位、田営が9位に登場)

<インド>

National Geographic Societyはニューヨーク・タイムズの記事を引用し、「ニューデリーの大気汚染はここ17年で最悪の規模で、人体に及ぼす影響は1日タバコを2箱以上吸うのに等しい」と報じ、PM2.5は1㎥あたり1,000μgに達し、インド政府が定めた基準の16倍、WHOのガイドラインの90倍超だと報じています。

原因は、インドでも中国と同様に2005年頃より自動車の排気ガス、工場の排煙、発電所、工事現場、ゴミなどの焼却、農地での野焼き等を原因とする大気汚染が深刻な状況となって来ました。中国が2011年には対策に着手しているのに比べ、インドでは未だに有効な対策が実施されていないようです。この事は、中国には1,500ヶ所あるとされる大気汚染のモニタースポットがインドには僅か39ヶ所しか無いという状況からも、抜本的な対策の遅れがあることがわかります。

このため、中国が改善傾向にあるのに対して、インドでは同期間の2010年から2015年の間に未だPM2.5の濃度は13%増加したと報じられています。

先般のパリ協定に中国もインドも早々と批准を決めたのは、このような危機感の現れともいえるのでは無いでしょうか。

写真 2016年11月5日インド、ニューデリーの中心部 (NATIONAL GIOGRPHIC 日本版)

<ヨーロッパ諸国>

ヨーロッパの国の多くは環境先進国であり大気汚染問題は解決済みと思われますが、実際にはEU加盟国の多くも大気汚染問題は頭の痛い問題のようです。ヨーロッパの国で大気汚染が問題になっている国は、工業国のドイツや東ヨーロッパの国々などと思われますが、意外にもスペインがヨーロッパでは大気汚染最悪の国といわれており、EUの環境当局によると、2014年の夏にスペインでは大気汚染の状況が安全とされる基準を超えた回数が150回を超えたと報告しています。この原因は、ドイツやベルギーなどに比べてスペインの都市は風や雨が少ないという気候の特性に依存している部分があるようですが、ヨーロッパにおける大気汚染の根本的な原因は、日本やアメリカに比べて「ディーゼル自動車」が多いことも一因になっているようです。

写真 スペイン/マドリッド (THE LOCAL ES)

<その他の地域>

メキシコシティも大気汚染に悩む都市ですが、これはメキシコシティが「盆地」であり、大気が他の都市と比べ、地形的に空気がよどみやすいことが原因です。イランなど近隣に砂漠があり砂嵐の影響を受けやすいなど特殊な要因により大気汚染が生じている場合などもあります。

写真 The 25 Most Polluted Places On Earth (List25 LLC)
(1位にイラン、16位にメキシコシティ)

表1

(出典:AIR NOW及び北京 蓝天天 | Beijing Air Quality

表2

まとめ

我国における大気汚染問題は、高度成長時代の1960年代から1970年初頭にかけて公害として社会問題化した四日市ぜん息問題や光化学スモッグ問題がありましたが、現在はこれらの問題は幾度にも渡る大気汚染防止法や自動車の排ガス規制によりほぼ解決しています。一方、世界の国々、特に中国やインドなどの途上国においては環境対策が経済の発展に追い付いておらず、また、急激な対策や規制を行う事は産業の発展を阻害することもあり、短期間に改善を行う事が難しいといえます。

しかし、インドや中国もパリ協定に積極的に参加したことにも見られるように、大気汚染問題に対しては強い危機感を有していると思われ、今後ヨーロッパ諸国を含めた大気汚染問題への早急な取組が望まれます。

引用・参考資料

注意

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