ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 循環型経済/社会の形成に向けて
情報発信日:2016-5-20
欧州環境庁(EEA)は2016年1月18日付けで「欧州における循環型経済〜これを形成するための基礎知識〜」を報告書としてまとめたと発表しました。
欧州環境庁は「挑戦することが必要ではあるが循環型経済は多大な利益をもたらす」と述べています。欧州は資源・エネルギーが少ないため、その資源・エネルギーの消費を低減し、資源の再生利用を図ることによる「循環型経済」の実現が重要であり、その実現に向けての基礎的な知識をまとめた報告書を公表したと述べています。
報告書では循環型経済の概念とその重要性、課題、進捗を図るための方法や研究課題、政策などについて述べられています。
「循環型社会/経済の形成」は温室効果ガス排出による「気候変動」及び「生物多様性の保全」とともに、最も重要な三大地球環境問題として取り扱われており、我国においても2000年に整備された循環型社会形成推進基本法により、廃棄物の減量や各種リサイクルを促進するための法律も整備されてきています。
地球上の化石エネルギーや各種資源は過去においては無尽蔵と思われてきましたが、世界の人口が急増し、産業が大きく発展した現在においては、「これらは有限であり、一度使って捨ててしまえば、やがて枯渇してしまう」という危機感が高まってきており、エネルギーは気候変動抑止の意味もあり化石エネルギーから再生可能エネルギーへの転換が、天然資源については、使用資源の削減と再利用による持続可能な社会/経済を形成するための、循環型社会/経済という概念が広まりつつあります。
概念としては、「使用原料の削減と使用済み資源の再利用」は容易に理解できますし、大きな経済的な効果も期待できると思われますが、今回は実際の「循環型社会/経済の形成」の現状を認識するとともに、今後の課題について述べてみたいと思います。
2016年1月18日付けで欧州環境庁(EEA)は、原材料とエネルギー消費量の低減と、再生と再利用可能な資源の活用による「循環型経済」の実現に向けて必要な基礎知識をまとめて「報告書」として公表しました。
EUにおいては、近年「資源効率(Resource Efficiency: RE)」、「循環経済 (Circular Economy: CE)」に係る議論が活発化しています。特に循環型経済は、「環境への負荷を低減しつつ、持続的に経済成長を図る」という理念としてEUにおける政策立案の場で重要視されてきています。
「資源効率:RE」と「循環型経済:CE」の議論は、リサイクルやリユースなど「静脈産業」に留まらず、製品設計におけるエコデザイン推進(耐久性、修理のしやすさ、リサイクル可能性など)、生産プロセスにおけるベストプラクティス推進(環境負荷の少ない生産方式など)、消費に関しては情報の信頼性確保やグリーン調達の推進、寿命となった製品に対する廃棄物処理・管理としてリサイクル目標の向上や処理施設の任意認証、そして再生資源の利用に関して二次原料品質基準の設定や化学物質管理の対応など、「動脈産業」側の企業にも及ぶ広範な概念の変革を求めており、抜本的な改革を伴う総合的なものといえます。これは2014年に欧州委員会が採択した「循環型経済パッケージ」を基本とし、リサイクル及び廃棄物に関連する一連の目標値の見直し、資源効率を測る指標として「資源生産性」の目標値などが提案されています。
今回の報告書においては、「循環型経済の利点」として、廃棄物や資源ロスの削減だけに留まらず、EUにおける輸入原料の依存度(特に地下資源)の軽減や産業競争力の強化にも役立つものとしています。
しかし、「循環型経済」は従来の「直線型経済(資源採取⇒生産⇒消費⇒廃棄)」と摩擦を生じる可能性があると危惧する面もありますが、多くの企業が既に循環型経済の新しいビジネスモデルを導入・試行し始めているとしています。そして、従来の直線型経済から循環型経済への移行に関しては、商品の設計、生産プロセス、消費者の動向、資金調達、技術革新の進め方などにも理解が必要としています。
翻って我国の循環型社会/経済に関する政策は、どちらかといえば、資源の廃棄段階に着目した3Rに重点を置いてきました。しかし、今後は環境負荷を軽減するために資源やエネルギーの使用を制限する中での社会・経済の発展を持続させて行かねばならず、「廃棄物の減量化・資源化」だけではなく、EUのように「資源ライフサイクル全体での資源効率化プロスセスを強化促進して、製造業と高度に連携した循環型社会/経済の形成するための道筋を示すこと」が求められています。
このような中、2013年5月に環境省が「第三次循環型社会形成推進基本計画」を発表し、2016年2月には経済産業省が「日本におけるRE(資源効率)CE(循環型経済)政策の取組及び今後の対応〜日欧における資源効率/循環型経済政策の動向と相互協力の可能性」と題する報告を行っています。
以下、環境省及び経済産業省が示した資料の概要について述べて行きます。
3Rの取組の進展、個別リサイクル法の整備などにより最終処分量の大幅削減が実現するなど、循環型社会形成に向けた取組は着実に進展。
国際的な資源価格の高騰に見られるように、世界全体で資源制約が強まると予想される一方、多くの貴金属、レアメタルが廃棄物として埋め立て処分されている。
東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う国民の安全、安心に関する意識の高まり。
・リサイクルより優先順位の高い2R(リデュース・リユース)の取組がより進む社会経済システムの構築。
・小型家電リサイクル法の着実な施行など使用済み製品からの有用金属の回収と水平リサイクル等の高度なリサイクルの推進。
・アスベスト、PCB等の有害物質の適正な管理・処理
・東日本大震災の反省点を踏まえた新たな震災廃棄物対策指針の策定
・エネルギー・環境問題への対応を踏まえた循環資源・バイオマス資源のエネルギー資源への活用
・低炭素、自然共生社会との統合的取組と地域循環圏の高度化
・途上国などの経済成長と人口増加に伴い、世界で廃棄物発生量が増加。そのうち、約4割はアジア地域で発生。2050年には、2010年の2倍以上となる見通し
・より少ない資源の投入でより高い価値を生み出す資源生産性を始めとする物質フロー目標の一層の向上を目指す。
・基本的枠組みに加えて、廃棄後の処理が問題かしている物品については、個別リサイクル法を整備。
図4に示すように、使用済物品の発生抑制対策、部品の再使用対策及びリサイクル対策(原料として再利用する)の取組を事業者に求める。
図5に示すように、事業場で発生する副産物の発生抑制対策としてリサイクル対策(原材料として再利用)の取組を事業者に求める。
・エコデザインに関する我国の制度体系(電気電子機器分野) 我国における電気電子機器分野での環境配慮製品の推進に関する制度的な枠組みとしては、製品の市場への投入という断面において、主に「設計段階における環境配慮」を規定する「省エネ法」、「資源有効利用促進法(指定資源化製品・指定再利用促進製品・指定表示製品)があります。 また、環境配慮製品の市場導入を推進するものとして、国等による環境物品等の調達促進を規定する「グリーン購入法」があります。
EUにおける環境負荷を低減しつつ経済成長を続けるための基本理念であるRE及びCEに関して、我国でもこれを取り入れる動きがあります。
・資源効率(Resource Efficiency : RE)とは、環境への影響を最小限にしながら、持続可能な方法で地球の限られた資源を使用する、資源効率の高いことを意図するもの。対象は金属などの資源に限定されず、水やエネルギーなども含まれます。また、3Rに留まらず、シェアリングやモノのサービス化など広範囲な概念も含まれます。
・循環経済 (Circular Economy : CE) とは、貴重な資源の有効利用と再使用・再利用等の一層の推進による資源の損失防止、資源の再生利用等の方向性に基づいた新しいビジネスモデルの構築、雇用の創出と経済成長、環境配慮型の製品設計と産業振興の相互協力を通じた廃棄物ゼロの実現、温室効果ガスと環境への負の影響の削減等を包含する考え方です。CEは、RE達成のための重要なテーマの一つとして位置付けられています。
表1 EUにおけるCE政策が我国企業に影響を与えると予想される事項
(出典:経済産業省/三菱総合研究所)
EUで予想される今後の要請 | 我国企業への影響(可能性として) | ||
製品設計 | エコデザイン推進 | 製造事業者 | EU域内製品への耐久性、修理可能性、リサイクル可能性対応 |
---|---|---|---|
生産プロセス | ベストプラクティス推進 | BATの参照文書にベストプラクティスが盛り込まれた場合、生産施設等で対応 | |
消費 | 情報の信頼性確保(公正な商慣行) | ラベルや製品環境フットプリント導入の場合、関連情報の整備・提示 | |
グリーン公共調達推進 | 調達基準にCE関連の追加要請事項が入って場合への対応 | ||
廃棄物処理・ 管理 |
リサイクル目標向上 | EPRに基づく負担 | |
リサイクル業者 | 認証基準が国際標準化した場合への対応 | ||
再生資源 | 二次原料品質基準 | 新たな二次原料(再生材)製造技術導入 | |
化学物質問題対応 | 企業全般 | サプライチェーン全体での化学物質管理(トレーサビリティ確保等)の要請対応 | |
全体 | 新たなビジネスモデル創出 | 新たな経済モデル作り(シェア、industrial symbiosis等)への対応 | |
開発・投資の促進 | 政府・企業 | 投資機会の確保 | |
複数指標によるモニタリング | 国際的な整合に向けた対応 |
注1) ベストプラクティス:ある結果を得るのに最も効率のよい技法、手法、プロセス、活動などのこと。固定的なものではなく、進化する。
注2) ここでいう「CE」とは循環経済の事で、CEマーキングとか関係がない。
注3) EPRとは拡大生産者責任 (extended producer responsibility)
注4) industrial symbiosis:産業の共生、工業製品の共生
(1) 資源・エネルギーは有限であり、人口の増加と産業の高度化により、急速に枯渇の危惧が高まっている。
(2) 資源・エネルギーを効率良く使い、地球環境負荷の低減を図りつつ経済発展を進める必要がある。このためには、従来の直線的経済(資源採取⇒生産⇒消費⇒廃棄))から「循環型経済/社会」へ転換を行うことが重要。
(3) 欧州や日本のような、資源・エネルギーの乏しい国や地域では、この循環型経済/社会への転換が急務である。
(4) 循環型経済/社会の形成は、温室効果ガスによる気候変動問題、生物多様性問題と並ぶ三大地球環境課題である。
(5) 従来の循環型経済/社会の考え方は、資源採取⇒生産⇒消費⇒廃棄のライフサイクルのうち、廃棄段階におけるリサイクル、リユース、リデュースなど3Rに関するものが主であったが、EU主導によりライフサイクルの全てを見直し「循環型経済/社会の形成」のための最適なプロセスを再構築する方向が提案された。
(6) 日本においても「循環型社会形成推進基本法」の基、「循環型社会形成推進基本計画」が定められ、各種リサイクル法、エコデザインなどの法整備も進み始めている。
(7) 今後は、環境先進圏である、EUでの政策や法整備により我国も影響を受ける可能性があるので、政策動向に注視して備えることが重要である。